十三話

「風に運ばれたギターの音は、この街を包みこんでいるようで……」


 澪は憧憬にも似た表情をした。


「この音が世界を包み込んだら……そう考えたら、胸が高鳴ったわ。だから……」


 澪は友紀人を見上げた。

 八年前は、たった数センチの差だったのに。


「あなたが『プロになりたい』と言った時。しがらみを切り捨てて、大空へ羽ばたかせてあげるのが、私の役目だと思ったの」


 夕陽が、ふたりを照らした。


「……何で、言ってくれなかったの……?」


 その問いに、澪はあの頃の友紀人を思い浮かべて、静かに微笑んだ。


「あなたは、一度懐に入れたら、大切にしてしまう子だったから」

 

 そして、目を伏せた。


「あの時、連絡を断つ訳を話せば……きっと胸の内に私を残したまま、大人になってしまう……それは心を縛るのと同じよ。世界を見ているあなたには、そんなことに囚われて欲しくなかった」


 だからなおさら、と続けた。


「あなたは私を憎んで、それを糧にして……あとは忘れるべきだった」

「……それで、わざわざあんな手を使ったっていうの……? ……俺が……未練を残さないように……?」


 友紀人の声が、震えた。

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