八話
友紀人の鋭い視線が、八年前の澪をも貫いた。
澪はその痛みに怯みかけたが、口を結んで受け止めた。
あの時、友紀人が受けた衝撃に比べたら……そう考えると、澪には傷ついた顔をする資格はない。だから……
凪いだ目を装って友紀人を見つめ。
答えを返すために口を開いた。
「……あなたは、日本を発つ前にこう言ったわ。『この携帯があれば、いつでも澪さんの声が聴けるね』って」
「……そうだよ。それが、俺の拠り所だったから……」
友紀人は視線を落とした。
その先には、澪の手があった。
一方的に離れた手。
……あの時も、今も。
友紀人の視線に熱を感じた澪は、きゅ……と唇を噛んだ。
見えないように、ひそかに。
それから感情をひとつ飲み込んで、ゆっくりと口を開いた。
「……だからよ」
「……え?」
澪の低い声に、友紀人は引っ張られるように顔を上げた。
「私は、ただの家庭教師だった。……あなたの家族ではないわ。あなたがプロになるつもりなら……関係の希薄な私ではなく、あなたの師となるリメルさんや、あなたのご家族を拠り所とするべきだと思ったの。もしくは……あなたのパートナーになる人を」
「何……それ」
意味がわからないと、友紀人は首を横に振った。
「澪さん……以外を、パートナーに……?」
「大人になっても向こうで活動をするなら、あなたのすぐ傍で支えてくれる人が必要となったはずよ。あなたの性格からしても」
素直で、懐いた人には少し甘えっ子になっていた、可愛い生徒。
夢に向かって羽ばたこうとする、友紀人の足枷にはなりたくなかった。
活動拠点で友紀人がパートナーを作ろうとした場合、家族でも友人でもない澪は邪魔になるだけだ。
パートナーになる人も不快だろう。
友紀人が特別な心を残す者と、つながりがあるままなど。
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