七話

「……小さいね」

「今のあなたに比べたらね」

「そうだね。……本当に、小さいな……」

「しみじみとして、どうしたの?」

「……あの頃の俺は、この手にずっと甘えてたんだなって、思って」

「子どもは、甘えるのが仕事でしょ」


 それが当たり前だという澪の口調に、友紀人は眉をしかめた。

 どうやら、過去の傷に触れたらしい。


「……音信不通に、したくせに」

「……そうね」

「スペインに着いた時、到着の電話をかけたら……『この電話は、お繋ぎできません』って、無機質な声で拒否された俺の気持ちが……わかる?」


 友紀人はうつむき、切なげに声を絞り出した。


「わかるわ」


 淡々とした澪の声。

 あえて淡々と聞こえるように言った。


 単身で海を渡る、十五歳の不安と葛藤。

 それを頭に置いた上で、あの時の澪は苦渋の決断をしたのだ。


 そして、今でも考えは変わっていないと示すように、友紀人から手を離した。


 友紀人は反発するように、勢いよく顔を上げた。

 澪の手が離れる前に掴まえられなかった、自分の手を握りしめて。


「じゃあ、どうして……っ!」


 友紀人の目は、潤んでいた。

 怒り、苦しみ、切なさが浮かんでいた。


 そこに恨みが混じっていないのが不思議なほどの、鋭い目だった。

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