四話

 友紀人の注文したコーヒーが運ばれてきた。

 店員にお礼を言った友紀人は、カップに砂糖を入れた。

 スプーンに三杯。昔と変わらない。


 変わったのは、手の大きさ。

 昔は、コーヒーカップが小さく見えるほどではなかった。

 女の子と見紛うかのようにしなやかだった指も、今は節がはっきりとわかる。


 こうして目にするまで、友紀人が大人になったという実感が──


(……え?)


 今、動きがぎこちなかった気がする。

 気のせいだろうか。

 ……もう一度、きちんと確めなければ。


「澪さん」

「……」

「澪さーん。……集中すると周りの音が入って来なくなるトコ、変わらないね」


 友紀人がテーブルに腕を置いた。

 昔なら、行儀が悪いと静かな叱責を飛ばしたところだが。

 あいにく澪の意識は、テーブルに乗らなかった左腕に向けられていた。


「……ねぇ。せっかく見つめてくれるなら、俺の顔にしない?」


 友紀人が顔を近づけてくるのにも気づかず、澪はその腕を凝視し続けていた。

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