計画始動 刑場 シェルシア視点

 支給品の懐中時計を見て、ため息を何度もつき…………やがて覚悟を決め向かう。

 俺達処刑人の七つ道具の内、羽切りの大鎌と、もう一つ。

 地獄行きの切符。

 これだけは管理人の俺しか発行できない。

 ユノと最後に話がしたかった。


 薄暗い廊下を進みながら、やがて半開きになったseaの独房の前に立つ。


 他の房と違うのは糞尿の匂いがしない。

 だが今日は、それだけじゃない。

 鉄のような生臭い匂いが立ち込めている。

 その扉をそっと開く。


 月明かりの中、ユノが俯き椅子に沈んでいた。

 ほんの少し、顔を上げ一言呟く。


「魔術具。サンキューな」


 seaを霊界に。それは俺が用意させてやれる、唯一の選択肢だった。

 水を操るseaが地獄に行ったら、マリンの救出だけに収まらなくなる。

 だが、それでも………もしかしたらseaを連れて行くのではという気がしていた。


「良かったのか? 手放して」

「逢えるさ…。また。

 カイを探さないと、マリンも幽体のままで不便だからな」

「何それ、どうゆうこと?」

「ちょっとした取引と………………………。また逢うための口実………かな」


 また逢う………か。


 ユノ、俺もこの先全ての『計画』に自信がある訳じゃないんだぞ。

 もし、俺が堕天したら、また今みたいに話できるか?

 望んでくれるか?


 駄目だな。今言ってしまったら……。


「マリン、しっかり助けろよ」


 切符を切り、詠唱を終えると俺の前に地獄の門が開く。

 空間の中に現れる次元の隙間。

 赤黒い雲が広がる下層の世界、魔界。


 ユノはゆっくりと振り返り俺を見据えると、不敵に微笑む。


「問題ないさ…。『俺たち』は強いだろ?」


「……………。

 ふっ…相変わらず、切り替えの早い奴!」

「ははは」


 覚えてたんだな。

『天魔統一を目指し、俺は天界を、ユノは魔界を手中に』、そんな馬鹿な『夢』。


 渇いた笑いと共に、黒く染まった大鎌を抱え、ユノはゆっくりと歩を進める。


 お前がそう言うなら、俺も別れの挨拶は必要ないよな。

 そうだな。俺達は…俺とお前は強いから。地獄に行ってもそうそう、野垂れ死にはしないだろう。

 やがて見えなくなったユノの背を確認してから、俺は門を閉じた。


 ならば、計画を続投する。

 他の『連中』にも伝えないとならないな。


「問題はseaの方か…」


 うまく転生に漕ぎ着けられればいいが…。

『あの方』次第か。

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