四世界

狂犬の森 地獄一層 マリン視点

「はぁっ………はぁっ…………っ!」


 息が、整わない。

 死ぬ気でも逃げ切らなきゃ。

 咄嗟に登った木の枝、なんだか心もとない!

 最悪だわ。


 木の元まで来て地獄の獣がグリグリと辺りを見渡している。

『狂犬の森』?

『窓』から人間界に犬って言う動物がいるのは見てたけど…こんなんだった?

 私が知ってる犬はもっと、人間に懐いていて……そうそう、国の偉い人が『犬は大事に』みたいな条例を出してたわよね? あれって何ていう国だっけ?


 とにかく、あのブッサイクなモノが犬なんて呼ばれちゃ、犬が可愛そうだわ。


 狂犬はやがて諦めたように私の木のそばを離れる。

 鼻は効かないのかしら?

 視力は特別良くも悪くもってところかしらね。

 問題は聴力。

 今、降りたら足音を聴き分けられるかな。


 スカートの裾を結んで作ったポケットを開き中を見る。

 石が三つ。握りやすい三十センチ程の枝が一つ。

 まず、武器になるようなものを持たなきゃ…。


「暗い……」


 空が炎のように紅く染まっている。

 天界の植物とは違うのね。不思議だわ。

 遠くの茂みの奥から絶叫がこだまする。

 お兄様………自分で決めた道だわ、あたしは後悔しない。


 リヴァイエル……あたしはやってやるわよ。

 貴女のように刑場に入って罪に従うなんてゴメンだわ。

 いつかここを抜けて見せる。せめて、誰か……程度の良い悪魔にでも出会えれば…。なんでもするわ。

 他の人から見て、あたしは華奢だし、童顔だし、どうもなめられるって言うか………でも、それって油断するって事よね?


「おかしいわ、リヴァイエル……。私はあんな汚らしい生き物と関わり合いたくないわ」


 私が見た人間は、とても卑しく、乏しく、残酷で………。自分が青の部屋に入った事を恨んだ。

 まぁ、今頃お兄様の居る刑場で刑が執行されてる頃でしょうけど…。


「………………っ??」


 足音だ……。 犬じゃない……。

 1人だ。男性にしては軽そうね…子供かしら?


 まずは、仲間にしろ、囮にしろ……人数を増やさないと……体力がもたないわ。

 あの犬、何匹くらい居るのかしら?

 木に登ると森の切れ目は見えるのに、全然辿り着かない。


 生き残ってやるわ。

 必ず…!


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