執行命令 刑場 シェルシア視点

 頭が割るように痛い。


 処刑人全員が房から戻り、誰も居なくなった待機所で一つだけまだ、鍵掛けに掛かっていない独房がある。

 seaの部屋だ。

 何をしているかは明確で、俺が何に悩んでいるかも自覚していた。

 一つはいつかこうなると思っていたこと。

 もう一つは完全なイレギュラー。


 この二つの現実を、俺はユノに伝えなければならない。


 デスクに書類を投げ落とし、埋まるように椅子に持たれる。

 何度見ても、書類に書かれた事実は変わらず、冷たい文字が俺の何かを締め上げる。


『元リヴァイアサン リヴァイエルの刑 執行日、及び 刑罰命令書』


 俺は奪えるか?

 ユノからseaを。

 いや、俺はビジネスだ。処刑人だ。管理人だ。ユノもそれは分かってるはず。

 1度担当から外し、執行は俺がやるか…? アイツに傷が出来るより、俺が恨まれた方が……俺自身が気が楽な気がした。


 そしてもう1枚の書類。


『天使の遺体収容願

 収容依頼天使 元リヴァイアサン マリン』


 駄目だったんだ。彼女じゃ。

 seaが反逆した理由と同じだった。

 ……元々純心で温厚なマリンには『生き物を破壊する』という事自体が不向きだったんじゃないか…と言う話だ。


 なぜ誰も思わない?

『人間ってなんだ?

 俺たちより劣った種族じゃないのか?

 魔法も使えず、争いの多い種族だと聞く。

 何故、破壊できない? それが絶対神の命令でもか?

 それとも、知らないのは俺達天使なのか?』

 それとも俺は『窓』から見たから言える身なのか…?


 マリンは自殺だった。


 簡単な。

 反逆罪は羽切りは必須。そうなれば場所は一つ。

 兄であるユノのいるここに来ることになる。

 マリンなりの配慮……。


 自殺者の行く場所は一つ。

 地獄、狂犬の森。

 この処刑場を経由すれば少なくとも合法で、天使の実体のあるまま地獄行きになると言うのに…自殺の場合、幽体で人間の亡者と変わらない扱いになる。


 魔力も極力下がるだろう。

 ただひたすら残忍な獣に臓物を狙われ、それが永遠に続く極刑。


 森から出ることは…………不可能だ。


 ユノに…………言うのか…?

 俺がこれを…………?

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