水と闇 刑場 Sea視点

「-----♪♪-♪---♪----」


 いつもユノが朝早く来るようになった。

 私の従者を殺した男。

 でも、それは最初から分かっていたこと。

 カイが『自分は従う』と言ってくれたあの日。私も彼も死刑判決を受け入れたも同じ事。

 ユノはビジネスだ。

 カイの持っていたリヴァイアサンの魔力の爪のネックレスも、遺品としてユノから内密に受け取った。


 恨まなければならない。

 カイを処刑したユノを。

 それでも、カイが処刑されてから、私が処刑人達に受けた過酷な環境を思えばユノは余程まともに………。

 違う。違う。違う。

 彼は私の大切なカイを処刑したんだ。

 そう、私は一刻も早くカイに会いたい。例えカイが私を覚えていなくとも、またそばに居たい。

 私の唯一の半分の存在。

 私の全てを理解してくれる存在。


 それでも、ユノに会うたび私は自分の気持ちがコントロール出来なくなった。

 鉄の扉が開く度にドキッとする。


「おはよう」

「おはよう………」

「今、唄ってただろ?」


 私の枷を外し、ユノは穏やかな顔付きで私を見る。

 私………何をしているんだろう?

 私………どうしちゃったんだろう?


「なぁ。随分前に聞いたけど…人間の男女の輪廻転生の話。聞かせてよ」


 覚えてたんだ。

 あんな少しの…愚痴みたいな思い出話。


「駄目?」


 サラリと流れる黒髪と切れ長ながらも私を包み込むような視線に釘付けになる。

 人間の男女。

 私に『窓』から『恋愛』を魅せてくれたあの2人。


「始まりは何千年も前。

 二人を最後に見たのは五度目の転生だった。

 人間にはね、ハーフって呼ばれてる人がいるんだけど、知ってる?」

「ハーフ? 人種の違う人間同士の…って事?」

「ううん、違う。

 人間界に居ながら、悪魔や天使の能力を持った人間の事」

「あぁ、なるほど」


「突如、発症する事もあるの。

 前世を思い出したり、臨死体験をきっかけに、前世で使えた魔力が戻ることがあるみたいなの。

 悪魔と契約して魔法が使えたり、神通力で天界や魔界に繋がりを持った人間、前世が神や天使だった者………。

 人に紛れて暮らす事が多いけど、最近は天界か魔界に移住してしまう場合もあるの」


 ユノは唇をそっと撫で、神妙な面持ちで足を組み替える。


 天界だけにいると、こんな少しの人間界の情報も分からないのかしら?

 それとも別の事を考えているの?


「その人間の二人は、女性が悪魔のハーフだったの。だからこそ、それがいつも障壁になってた」

「何故、障壁に?」


「………色々。

 人とは違う力がある事で贄になったり、戦争、奴隷商に目を付けられたり………。

 それもハーフである事が他のハーフにバレて利用される事もあるの。

 最近は魔女裁判があったでしょ?隠れて住んでればバレずに済むけど、裁く側にハーフがいると厄介なの。

 裁く側のハーフは弱いハーフを犠牲にして、自己保身に走る」

「胸糞悪い話だな」

「ふふ……そうだね…」


 思わずユノの顔を覗き込んでしまった。

 今でさえ、この独房の扉を開けば他の部屋で行われている悲痛な叫びが木霊していると言うのに。

 処刑人の言うセリフ?


「それで? 男の方は知ってるの?」

「彼はいつも最後に知る。

 ハーフは悪魔や天使と同じで寿命が無いから彼女はいつも隠す。

 けれど、お互い命を狙われ死期を悟り、離れ離れになる時に必ず言っちゃう。『生まれ変わったら、また絶対会える』ってね」

「不幸な話だ」

「そうかな?」

「不幸だよ。結局、報われないなら」


 不幸…………なのかな。

 確かにそこには『愛』は存在したのに。


「お前は?」

「ん?」

「何故その2人を見てたんだ?そーゆーのに興味があるの?

 神獣もレンアイとかするの?」

「うぐ………」


 意地悪そうに笑うなぁ。

 私を覗き込んできたユノに、自分でも顔が火照るのが恥ずかしい程感じる。


「相手ってカイ?」

「違うよ! 彼は本当に従者!」

「なら、お前の相手ってどんな人?」

「はぁ??」


 なんでそんなこと今更聞くの?

 言わなきゃダメ? 絶対今、恥ずかしい顔してる私。

 恐る恐るユノを見上げると、ほんの少し。口唇同士が触れる…。


 いつも…………その後は時間の感覚が麻痺していく。


 ほんの少し、カイへの罪悪感を胸に抱きながら。


 カイ。

 今どこにいるの? 人間になった? 堕天して魔界にいるの?

 私はどこに行けばいいの?


 寂しい…。

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