二人の処刑人 刑場 シェルシア視点
ユノをリヴァイエルの担当にして一ヶ月経過する。
まずユノの素行の変化に気付いた。
刑場へ来る朝が早くなった。
今朝は部下からも遂に報告が上がっている。リヴァイエルの房の前だけやけに静かだ、鼻歌が聴こえ談笑する声もあると。
seaの担当に付けてから?
いや……妹が青の部屋に行ってから、か。
血縁者でも面会が許可されない。
俺は知ってた。
妹のマリンがどんなことになっているのか。驚く程になんの噂も流れてこない理由も。
神獣は所詮『獣』だ。
幽閉される。
天使も神や神獣に就任する、と時代や法が変わっても、何処かいい加減で、何かがおかしい。
ジズの五年を思い出すだけでゾッとするよ。
ユノがseaに依存しているのも、それがきっかけか。
一見、冷酷そうに見えるユノの顔立ちが穏やかに変化したことも。
それがいずれその手で処刑しなければならない女が相手だったとしても……………俺は止めることが出来なかった。
処刑人の鎌は初期段階では扱いやすい程度の大きさだ。それが天使の血を吸えば吸うほど、大きく透明になっていく。
俺達はこれを「罪人を裁いた褒美として成長する道具だ」と教えこまれた。異議を唱えた同僚が次の日には居なくなったのも覚えている。
目の前の山の様な紙の城を見る度、新人だった頃の自分を思い出す。
『主天使』でありながら、こんな汚れ作業の担当になった事を恨んだ。
「……………っ」
書類の淵でうっかり指を斬った。
薄らと滲む血を見ながら漠然とした不安が脳裏を過る。
刑場の処刑人は気付いて無いわけじゃない。
『これは正しい裁きなのか』
『本当にこいつらは罪人なのか』
まるで真実から逃げるように暴力に走る日々。
任期5年で『神獣 ジズ』を務めてから、管理人という立場で、希望してまたここに戻ってきた。
ユノと仲良くなってから1度話した『夢』を思い出す度、ずっとそのわだかまりが心の隅に引っ掛かる。
その頃にはユノはもう独房に囚人と籠るだけで、刑罰すら与えなくなった。アイツだって、本当は感じてる筈なんだ。
……知っているんだ。
俺は『窓』を知っているんだ。
あったんだ。空の災害を司るジズの部屋にも。
俺は人間を知っている。
リヴァイエルが何を言っているのか。
何に執着したのか。
考えたくもない。
知ってしまえば…同意してしまえば…俺はもうここに立っていられなくなる。
俺はリヴァイエルを見れない。話せない。
………お前は何を思いそこに居る?
………お前は何を想いseaを抱く?
………お前はもう『夢』を諦めた?
「…………きっつい………」
ユノ……俺を置いていくなよ。
俺も歩いてるからさ。
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