刑場の管理人 刑場 シェルシア視点

「お疲れ、どうだった?」


 リヴァイエルの元から戻ったユノは、随分機嫌が悪そうに見えた。

 処刑場で一番戦闘力が高いユノを行かせるのが得策と、管理人の俺は判断した。

 曲りなりとも、彼女は天使ではなく神の部類だ。枷の不具合でもあればこの処刑場纏めて文字通り飛ぶだろう。


 まして、今の刑場の処刑人たちはやりたい放題の屑ばかり。

 事情は色々あるが、中でもユノは、俺の唯一気の許せる同期で、今は部下。


 ジズに役職が変わった時は左遷かと思った。神と言えど、あの孤立した環境は二度と御免だ。


「あぁ、まぁ………なんてことないさ」


 ユノはリヴァイエルの房の鍵を定位置に掛けると、透明な大鎌を抱えたまま深く椅子に沈んだ。


 俺は言い出せなかった。

 しばらくは様子を見ようと。


 ユノの妹がリヴァイエルの後釜に抜擢されたと…………現状、言い出せなかった。

 この様子だと、天使が神に昇格しても、決して喜ばしいものではないのかもしれない。

 俺がいい例だけど。


 そうは言えども神の類に昇格できるのは一握りだろう。

 前回のseaの件で、後任は『余計な野心が無い天使をあてがおう』と言う動きが周囲も強かった。


 ユノの妹には会ったことがあるが、まさに純真無垢。他人からは傍目に見て、適任に思えたのだろう。

 seaの様に反逆を起こしたりは……まさかな。


 噂じゃ魔界も役職制になったと聞くが…まぁ、ここで羽を落とされる天使共の末路は、魔界に堕天しても役職とは程遠い存在になるだろう。


 seaも早く処理して裁判待ちの天使を刑場に受け入れてもいいが、元神獣の処刑となると、簡単に話が通らないのが現状か。


 理由は明確。リヴァイアサンの魔力は『水』の魔法だ。それも本来は海水に留まらない。その気になれば、全ての液体を操れると言う噂まであった。

 どこまでが報告書通りかは分からないが。


 魔界である地獄には水がない。


 seaを堕天させたら、たちまち魔界では彼女を取り合い、争いが起こるだろう。それに、水の無い地獄の住人に水を操る悪魔が加わることになる。

 皆、それを危惧しているのだろうな。

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