第4話 おっぱいです。

「つっ・・・」


痛みに自分の胸元に目を向けた。

白いシャツに横一直線に切れ目がと思う間も無く

ハラリと胸が丸出しになる。

下着ごと切られたのだと慌てて隠すが

何故か胸を隠しながら手に感じた違和感。


なんか変だ……。


青い犬がズボンの裾を噛んでひっぱり始めた。

そうだ、逃げよう!と胸を押さえ、あご髭達に

背を向け犬に続いて走り始めた。


「まて、女‼︎」


待ちませんよと心の中で呟き

背後に聞こえる声から逃げようと必死で走った。


犬について広場の様な場所まで走って来たけど

体調の悪さからか息が早くも乱れるのだ、

胸を隠しながらじゃこれ以上走れない。

のと、何故か犬が立ち止まったのだ。


「わんこ、ハァなんでハァよハァ」


と息を切らしていたら

背後に追いついたあご髭の仲間が背中にヒュン

と剣を走らせた。咄嗟に除けたつもりだったけど

腕に当たってしまった「くっ」と呻くと

周りから「きゃー」と悲鳴が聞こえた。

だから誰か助けてくれないかな止めてくれないかと

見回したけどジリジリと遠巻きになるだけだった。


そんな周りを見渡しながら、

今更ながらスーと背中に寒い気が走るのだ。

やっぱりおかしい、

ここはテーマパークでも日本でもないのでは…

よく見たら顔立ちが異国人ばかりだ

服装も全員異国統一だ、街も…まさか本物?

とにかく電柱や電線が一つも見えない…。

作られた場所にしても規模が半端ない、

ここもかなりの広さの広場…


沈みそうな夕日に照らさた街を

ぐるりともう一度見渡して身体が震え出した。


「ねーちゃん、今更震えてんのか」

「乳もう一回見せろよね〜〜」

「乳〜おっぱい〜」


あご髭と仲間の

下卑た声と下品な笑い声に意識が戻り、

必死で睨みつけたけど焦点が定まらない、

動揺が身体を不自由にさせる事と

声すら出なくなっている事に

今更泣きたくなっていた。






少し前、リヨン率いる隊員達は街の住民からの

労いの言葉を受けながらのんびりと歩いていた、

他の部隊員達も居たりで賑やかに

客引きや店の店主達の声が飛び交っていた。


「楽しんだ後、飲みに来てくれよ」


「食事はまだかい?サービスするよ」


「お疲れさん!奢るよー」


特にリヨン隊員達は皆礼儀正しく品行方正だから

街人にも慕われ人気者だった。

それに、彼らが店に居ると他の客も安心して

入店するから、いい客引きにもなって居るのだ。


「まず、お腹空きましたよね〜」


若いブルエがお腹をさすって居ると

別の通りから悲鳴と叫び声が上がった、

続いて聞いた事のある下品な大声が走って行った。


「今のオーティじゃないか?」


ベラドンが呟くと

遠くから街人の声が聞こえた。


「女性が髭野郎に追いかけられてるぞ!」

「だれか!衛兵を呼んであげて!」


「また、あのロクデナシ隊か」


「ウチには来ないで欲しいんだが、

サービス要求が酷いくせに金払い悪いし」


「また、

ストレス発散に女を苛めてるんじゃないのか?」


通りから嘆かわしい声や

不満気な声が洩れ聴こえ心配そうな空気のまま、

話題はオーティの悪い話題ばかりに。


そんな声が聞こえる中、

通りに居たリヨンと隊員達の姿が消えていた。

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