第62話 八百長。

「何ですか、奈緒ちゃんについて話って。」

「今回、八百長って訳じゃないけど、奈緒ちゃんの負けにしてもらいたいの。」

どういう事だ? 戦いを提案しながら、その戦いに妹を負けさせようとは。


「記憶のあった頃の彊兵君なら分かるんだろうけど……奈緒ちゃんはああ見えて勝ち気な性格なの。でもって、更にヤンデレ体質な所があって……。思い込みが激しいって言うか、なんて言ったらいいんだろ……。」

なる程、自分に自信のある奈緒ちゃんが、自分の好きな相手にフラレたら、認めざるを得ないという訳か……。


「そんなに俺と天ヶ瀬さんは、湯川さんから見てお似合いだったんですか?」

「えぇ。お二人以外にはあり得ないかとさえ思います。 奈緒ちゃんは人の心の隙に入り込むのが得意なので…………。正直、姉の私からもオススメはしません……。」

とてもそんな子には見えないけど……湯川さんには他意は無さそうだし……。


「言い分は分かりました。ただ、お約束は出来かねます。 この夏休みの行動を見ながらになります。」

俺はその日の夜、中々眠りにつけなかった。

どうしても、湯川さんの言っている事があっている気がしてならなかったからだ。


ーーーーーー翌日、退院の日。


俺は親と退院の挨拶を済ませ、荷物を持ち、湯川さんの車に乗り込んだ。 

「彊兵君、退院おめでとうございます。」

「ありがとうございます。皆さんは?」

「奈緒ちゃんは自宅でお昼ご飯の準備。刈谷さんは、天ヶ瀬さんを連れて快気祝いを買いに行くんだって張り切って行きましたよ。」

湯川さんは運転しながらサラリと言うが、そういうのって、黙っておいて『サプラーイズ!』とかってやるもんなんじゃないんだろうか……。


「キョウちゃん、今日からマリアちゃんと奈緒ちゃんの恋のバトルするんでしょ?! ちゃんとどっちにするか、真剣に決めなさいよ!! こんなウハウハ体験、普通の男子は経験しないんだから!」

相変わらずな母親を尻目に、俺はずっと気になっていた事を聞く。

「湯川さんは、篠宮先生の事、知ってますか?」

「あぁ、篠宮先生なら知ってますよ!昔、近くに住んでいて、私と篠宮先生、奈緒ちゃん、彊兵君の四人で遊んでいましたから。」

そうなのか。だから、俺の事を知っていたのか。


「それよりも、まだ記憶治りませんか?」

湯川さんの言う通り、何もまだ思い出せない。 ここは、事情を知っていて中立な湯川さんと、母親を頼るしかなかった。

「まだですね……まさか、ずっとこのまんまなんて事は……?」


「多分………ないわよ!きっと記憶は戻るわ!」

「目を合わせてくれるかな?」 

母さんと湯川さんは絶対に目を合わせようとしなかった。

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