第63話 退院。

やる事はたくさんある。 何よりも大事なのは記憶を取り戻す事。

天ヶ瀬さんと奈緒ちゃんのデート、それから俺の過去。


少しずつやるか。


俺たちは自宅に着いた。

そっか、俺は爺ちゃんの家にいたんだっけ。

家のリビングには誰もいなかった。 俺と母親、湯川さんは荷物を自分の部屋に置きに行く。


「母さん、ここが俺の部屋? 前の家はどうなったの?」

「ここがあなたの部屋。 そして、前の家は爆散したわ。粉々にぶっ飛んで塵と化したから建て直し中よ!」

母親の言葉に何やら湯川さんが耳打ちしている。

『何で爆散したとか、塵と化したからとか、そんな大袈裟な事言うんですか!?』

「こっちの家の方が良いんだもん。」

『えっ?』

『嘘よ、キョウちゃんと相手が決まったら、二人であの家に同棲させるのよ! 既成事実さえ作ってしまえば、どうとでもなるわ!』

全部ダダ漏れだ。耳打ちする意味はあるのだろうか………。


「あのさ、全部聞こえてるし、そんな爆散した後の家、いくら建て直されてても、住みたくないんだけど………。」

「冗談よ!…………にしても、皆帰りが遅いわね。」

「何かあったのかもしれません。様子見に行きましょうか。」

俺達は、一階のリビングに降りる。 リビングには色とりどりの輪っかで造られた壁飾りや、『彊兵君、退院おめでとう!』と書かれたボード等が掛けられていた。


その時だった。


『退院おめでとうございます、彊兵先輩!!』

リビング脇の押し入れから奈緒ちゃん、刈谷さん、天ヶ瀬さんが飛び出してくる!

「うおーぅ!ビックリした!!」

ビックリし過ぎて腰を抜かす俺。


「まさか母さんと湯川さんも知ってて?」

頷く二人。わざわざこんな事までしてもらえるなんて………。

三人共手を繋いで、サプライズ成功を喜んでいる。どう考えても、いがみ合ってる様には見えないんだよなぁ………。


ーーーーーー。


「何じゃこれはーー!!」

食卓に並んだ豪勢な料理の数々。

ビーフステーキ、シチュー、サラダ、鶏肉のグリル焼き、ピザ、そして何故か味噌汁、ご飯、煮物。

「退院祝いに力入れすぎた結果がこれさ!」

「母さんが作ったわけじゃないでしょ……。」

「そうでしたー!この三人がアンタの為に一生懸命作ってくれたのよ!!」

指を見ると、皆それぞれ絆創膏が………なんてオチは無く、見事に料理上手な三人だった。


「なんかさ、この食事……覚えがあるんだよな………。」

なんだろう。凄い既視感がある。

もう少しで思い出せそうなんだが…………。


「無理しなくていいですよ、先輩。」

声を掛けてくれたのは天ヶ瀬さんだった。

「何でわかったの、考え事してるって……。」 

俺は素朴な疑問を天ヶ瀬さんに投げ掛けた。


「前によく見ていた、考え事をして、一人で抱え込んでいる顔でした。」

天ヶ瀬さんは常に俺を見ていたのか……。

なのに俺は…………。


「湿っぽい話は無し!でも、ありがとう、マリアちゃん!」

俺には、母の顔は喜びでいっぱいな様に見えた。

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