第61話 考えろ、自分。

「湯川さん…………一体何を言っているんですか……!? 二人同時に付き合うなんて!!」

確かに天ヶ瀬さんの言う通り、意味が分からない! しかも、それを学校の人が見たら、俺はとんでもない節操なしになってしまうじゃないか!(今更)


「私は構いませんよ!さすが何にも考えないお姉ちゃんだけの事はある!」

ーーー全然褒めていない!

奈緒ちゃんはヤル気だが、天ヶ瀬さんはどうするんだろうか。 こんな馬鹿げた企画……。


「私はやりません。先輩が傷つく事はしたくありません……。」

………天ヶ瀬さん……。


「逃げるんですね、マリアちゃんは!? なら私が先輩を貰っても構いませんね!」

奈緒ちゃんの言葉に反応したのか

「やりますよ!やってやりますよ!」

と完全に応戦態勢に入っていた。

(結局やるのか…………。)


「期間は夏休み終わり一週間前まで。デートでもメッセージでも、何でも構いません。とにかく、彊兵君を振り向かせた方の勝ちとします。但し、夏祭りや海水浴等の危険を伴う、或いは夜に出歩く場合は私の許可を得て下さい。 また、彊兵君にはどちらにも有利にならないように公平な評価をお願いします!」

湯川姉は公平を期す為、あくまでも中立な立場にいる事を公言する。

(俺達は、病院内のレストランで何をしているんだ。)


「明日の退院後からの行動とします。 彊兵君には病室に戻って頂きます。見張りとして、私が常駐していますので、宜しくお願いします。」

そう言って湯川姉はお会計を済ませ、僕を病室へと戻した。


病室に戻ると、母親と刈谷の姿はなくなっていた。 今この病室には、湯川姉と俺だけ。

「湯川さん!!」

俺はズイッと湯川さんに迫る。


「な、何ですか!? いくら二人がいないからと言って、節操なさすぎですよ!!」

身構える湯川さん。

「違いますよ、何で湯川さんは俺を彊兵君と呼ぶんですか? どこかでお会いしましたか?」

「貴方は覚えていないとは思いますが、……君が13歳くらいの時、虐待を受けている子供がいると言うことで、他の部署と調査に行ったら、貴方が血まみれで玄関先で倒れていて、保護したの。」

「俺の親は……?」 

「残念ながら、釈放されてからは行方知れずよ。」

「俺の親は死んだって、親戚の奴らから聞かされてたけど……。」

「それは多分、家柄を守る為の嘘よ……。」

俯きながら、湯川さんは俺に話してくれた。

今まで、虐待を受けてきていた事。施設で一人ぼっちだった事。里親が見つかり、幸せに暮らし始めた事。天ヶ瀬さんという恋人がで出来て、本当に嬉しがっていた事。


ーーーその一つ一つを、俺は二回も忘れているのか……。

それでも、天ヶ瀬さんは付いてきてくれてるのか。


「彊兵君、奈緒についてはなしがあります。」

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