第25話 天ヶ瀬と展望台と刈谷。

昼食を食べ終えた俺達は、上階にある展望ルームに向かった。

ここからは三河湾どころか、豊橋市、太平洋、浜松市を一望できる地元民イチオシの観光スポットなのだが、豊橋市がそれ程推してないのか(失礼)メジャーではない。


知る人ぞ知る観光スポットといった感じだ。


「ここからじゃ、足伊達高校は見えないな(笑)」

当然だが、足伊達高校は新城市の山の中に建てられている学校だ。

ここからは見えるはずも無い。

「ふふっ、それはそうですよ!ここからだと離れすぎてますから!」

よかった、さっきまでのマリアに戻ってる。


「そういえば、刈谷の姿が見えないな。」

俺は展望台から園内の刈谷の姿を探す。

「………………先輩。デート中に他の女の名前を出すのはどうかと思いますよ? しかも、刈谷さんなんて………。」

明らかにマリアは怒っている。

はっ!コレは明らかに嫉妬というやつでは!?


「いや、刈谷は一人で行動してたし、危ないかなと思って……。SDメモリーカードの件もあるし。」

「確かに……。彼女に何かあると大変ですね……。」

俺達は展望台から刈谷を探した。ピンクのワンピースに金髪のツインテールなんてそういない。

俺達は目を凝らし、隅々探していく。


「いました、いましたよ!先輩!」

天ヶ瀬の指差す先、そこは噴水広場。

よく見ると複数人に囲まれている。 

「ヤバイ!行こう、マリア!」

「はい!」

俺達はエレベーターで1階まで戻ると、噴水広場まで猛ダッシュした。


「いい加減、出せよ!刈谷ぁ!」

男の声が聞こえてくる。

「絶対にSDメモリーカードは渡せない!あんた達をブタ箱にブチ込んでやるまで!」 

刈谷の声だった。

「人を散々脅迫して、身体だけ要求して、そのせいで、キョウ君からも、天ヶ瀬からも避けられて、わたしはどうしたらいいの!!」

涙ながらに訴えかける刈谷の言葉に嘘はないと、俺もマリアも確信していた。

お互い頷くと一気に花壇の陰から飛び出した。  


「大丈夫だ、刈谷。こっからは俺とマリアの出番だ。」

「チッ!こんなとこまで来やがって!」

よく見ると取り巻き達だった。

「今日は骨折君は来てないんだな。」

「あぁ、舐めてんのか、テメェ!」

俺の挑発に乗る馬鹿取り巻き達。


「なら、かかってこいよ。今回は俺が相手だ。」

俺の言葉に取り巻き達は爆笑する。

「おいおい、いじめられっ子君から喧嘩の催促だぜ?ボコボコにしてやるか!」

言うとほぼ同時に左ストレートが飛んでくる。

……………経験者か。大したことないが。

「オラ、逃げてるだけじゃ何もなんねぇぞ!」

またしても左ストレート。右のジャブは弱い。

…………何だ、拍子抜けだな。


「なぁ、もうこの辺りにしておけよ。」

俺の言葉にも耳を傾けず、拳を振り上げてくる。

「喰らえや!」

大きく振りかぶった左。右側はガラ空き状態。

「くたばるのはテメェだ、クソが。」

俺はそう言い放ち、右側腹部、肝臓のある辺りにレバーブローを思い切り打ち込む。


「ひゅっ、ひゅっ!」

堪らずその場に膝をついて倒れ込む取り巻き。まともに呼吸も出来ないようだ。

俺は倒れ込んだ取り巻きの頭を踏みつけるとこう言った。


「この場所は、癒しを求めて数多くの家族や、カップルが訪れる場所!子供も多くいる!こんな所でタカるなんざ、恥を知れ!!」

俺はこの件に対して次のように述べた。


「いい加減しつこいから、マリアに録画してもらった動画と被害届を提出し、弁護士にも相談を掛ける。 教育委員会にも提出し、地元民からも署名を求める。以上だ。覚悟しておけ。」

流石にこの言葉には取り巻き達も石原に付くのにメリットがないと感じたのか、以降

、俺達に一切の手出しをしない事を誓って去っていった。


ーーーしばらくの後。


俺は自販機で水を買ってきた。

こういう時は、味のない水の方が落ち着くんだ。  


「ごめんなさい……今まで嫌がらせばかりしてきて。」

「全くだわ。貴方達の対応にどれだけの労力を費やしたと思ってるの?」 

落ち込んでいる刈谷にも容赦なく突っ込んでいくマリア。


「今の現状を教えてほしい。」

俺の言葉に一瞬、躊躇ちゅうちょしたが、やがて口を開く。

「石原は田原を使って、学園の可愛い子達を襲おうとしてる。」

「そのためには、俺達が邪魔だから始末してSDメモリーカードを取ろうって訳か。」

「実はその事で二人に謝らなければならない事があるの。」

刈谷は俯いたまま口を開く。

「キョウ君に以前話したでしょ……?私が胸を揉まれたりしたって。……あれ、嘘なの……。」


……………………へっ?


一瞬、俺の頭の中は真っ白になった。

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