第26話 刈谷の想い。

俺は刈谷の言葉に呆然としていた。


「え、嘘ってどういう事?」 

全身が脱力していく。今まで助けてきたのは全部嘘だったってことなのか? 


「転入当日、私は確かに石原に呼ばれた。だけど、体の関係はきっぱり断った。」

つまり、刈谷は襲われずに済み、SDメモリーカードも、DVDも存在しないことになるのか……。

それ自体はいい事なのだが………。 


「なら、なんでそんな事されたなんて涙ながらに訴え掛けた?」

「誰かに少しでもすがりたくて……でも、あの時の天ヶ瀬さんのビンタで目が覚めました。」

刈谷は続けた。

「でも、犯されそうになりかけたのは本当です。私が激しく抵抗していたから、生徒指導室の外まで声がして、他の先生が様子を見に来てくれたんです。 でも、そのせいで計画は丸潰れだと逆ギレされて、お前の好きな男も調べ上げてある。そいつを徹底的に陥れる。嫌なら協力しろと言われて………。」


「先輩、場所変えませんか? 誰にも聞こえない場所に。」

確かに天ヶ瀬の言うとおりだな。

となると、あそこしか…………ないよなぁ……。


「三名様ですね、どうぞ、足元お気をつけて(笑)」

この係員、完全に『彼氏、隠れデート見つかって修羅場ー!』とか思ってんだろうな。

巨大観覧車は俺達を乗せてゆっくり回る。



「先程の話の続きですが、刈谷さんの好きな人は田崎先輩ですよね?」

「…………はい。」


「でも結局、先輩は陥れられた。何故ですか?」

天ヶ瀬の言う通りだ。もし、刈谷が俺の事好きなら……矛盾してる。


「先輩、何ニヤニヤしてるんですか!」

「してないしてない!!」

好きな人が自分なんて言われたら、そりゃ嬉しいもんな………。


「石原がキョウ君に執着するのは、女子生徒を助けたからって聞いてる。それでコレクションがなくなったって。

元々奴は、キョウ君を陥れるつもりだったんです。

でも断ったらキョウ君は学校にいられなくなってしまうかもしれない。

だから断われませんでした…………ごめんなさい…………!!」

涙で顔はグシャグシャだった。

刈谷はどちらにせよ、石原の駒として動くしか手段がなかった訳か……。


「女子生徒って、マリアの事か?」

「そこまでは分からないけど……そう言ってた……。」

とんだ性欲豚野郎だな……。


「そして、次に出された指示が、天ヶ瀬と言う生徒がいるから、そいつを上手いこと体育倉庫に呼び出す事。そして、私は万が一の時のために、ビデオカメラのSDカードを引き抜く指示も与えられた。」

あのクソ教師が……………!!

「そして、あの集会、演技だと言う話も全て石原の指示です。」

なるほど、要は石原は、自分の気に入らない事があると、ソイツを徹底的に陥れたくなる訳か。


「刈谷、まだお前を信じたわけじゃない。確認しておきたい事がある。」


「俺の部屋にあったカメラは誰が何の目的で仕掛けた。」

「そしてもう一つ、刈谷は最近、視聴覚室に行ったか?」

俺の二つの問いに刈谷は思い出しながら答えていく。


「カメラの件も石原の指示です。二人の不純異性交遊を録画して、田崎先輩は退学処分、天ヶ瀬さんは弱みを握り、石原が天ヶ瀬さんを犯す算段でした。」


「あと、もう一つの……視聴、覚室?って、それ、何?」

少なくとも嘘を付いてる顔じゃないな。


「分かった。だが、田原が石原の味方なら、なぜ奴は体育倉庫に俺を飛び込ませたり、俺の協力をしたんだ?」

「協力をする事によって、キョウ君の警戒心が解けていく。だから、田原をキョウ君の近くに置いて協力者兼監視者として、忍ばせておいたみたい。」


「要は情報屋の役割をしていた訳か。」

俺の言葉に刈谷は頷く。


「俺達は何だかんだ、石原の掌の上だったわけか。」

うなだれる俺に刈谷が声を掛ける。

「実は、今体育倉庫でのやり取りのSDメモリーカード、持ってる。」


ーーー!!

俺とマリアは顔を見合わせた。


「今日、ここに付いてきたのは、それを渡すのと謝罪する為………。」

刈谷はそう言って、バッグからSDメモリーカード5枚と小型のモニターを出してきた。


こんなにカメラが仕掛けられていたのか……。

「4枚は体育倉庫のもの、もう一枚はキョウ君の部屋に仕掛けたカメラを見る小型のモニターとカード。」

「これは、全部、石原の指示で、石原から貰ったものか?」 

「はい。」

「マリア、カメラで写真を。」

「わかりました!」

カシャ、カシャ!

刈谷がカード等を持っているところを写す。


俺はモニターですべてのメモリーカードの内容をチェックする。

全てが本物だった。俺はその全てをバッグに仕舞う。


「天ヶ瀬さん、田崎先輩、本当に申し訳ありませんでした!許してもらえなくても、信じてもらえなくても構いません。でも、これからは本気で罪を償います!」


「今までの会話、全てを録音したけれど、刈谷さんは構いませんか?」

天ヶ瀬は録音中のスマホ画面を刈谷に見せた。 

…………いつの間に………。


「はい、構いません。」

刈谷は真っ直ぐな瞳でこちらを見てくる。その瞳には嘘偽りは無さそうだった。


「私は許してあげて構わないとおもいますよ。少なくとも、彼女が嘘を付いているようには思えませんから。SDメモリーカードの中身も本物でしたし。」

天ヶ瀬はそう言うと刈谷にハンカチを手渡していた。

「俺も許してあげて構わないと思う。刈谷、今度はこちら側の仲間として協力してくれ!」


「でも、万が一の事があったらキョウ君が退学に……。」

「今更だよ。奴を許してはおけない。むしろ、退学というか、退職するのはあいつだ。」

「刈谷さん、もう貴方は縛られなくていいんです。」


「ありがとうございます……!」

刈谷は涙で顔を濡らしていたが、とても晴れやかな顔をしていた。


観覧車はまた元の位置に戻ってくる。

俺はマリアの手を繋ぎ、観覧車から降りると、刈谷の手を引き降ろした。


「ありがとうございました!(笑)」

おい、修羅場じゃねぇよ!


俺達は再び園内を歩き出す。

陽が傾き出すこの時間帯、人は段々とまばらになってきていた。


「刈谷さん、まだ私達、植物園行ってないの!行きませんか!?」

天ヶ瀬の思いがけぬ言葉に刈谷はたじろぐが、しばらくして

「行きます!天ヶ瀬さん、先輩!」

その顔は笑顔で満ち溢れていた。

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