第7話 天ヶ瀬、捕まる

ーーーその頃の天ヶ瀬。




私は体育館裏に来ていた。


「6時限目の授業も、もう終わってしまいますが、何の用でしょうか。」


「何、俺の言う通りにしてりゃ悪い様にはしない。担任とも話をつけてやる。…………にしても、良い女だ。」

男は舌なめずりをしてこちらを見てくる。


「貴方がこれ程までにクズだとは知りませんでしたよ。」

私の目の前にいたのは、

「石原先生。」


そこには生徒指導の石原先生が数人の生徒を従え、立っていた。


「そんな口を聞いてもいいと思っているのか、天ヶ瀬。お前の大事な田崎がどうなっても知らんぞ?」

ゲヒヒヒッと下品に笑いながら私に近づいて来る。


「それ以上、近づくというのならば……。」


私からしたらただのクズでしかないこいつ等を倒す事など造作も無い事。


けれど……石原は私の強さを見ている。


この人数で勝てない事くらいは、このクズでも解っているはず。

何か策を練ってあるに違いない………。

何を考えている………石原。


「近づいたら、どうするんだ?天ヶ瀬?俺の言葉次第では、お前の進路も決まってくるんだぞぉ?」

相変わらず汚い手を……あの噂は本当だったか………。


「石原先生、貴方が女生徒を脅してその身体を貪っていると言う話は本当の様ですね。」


「お前も今からそうなるんだ、天ヶ瀬!」

女生徒の中で噂になっていた。女生徒の弱みを握り、貪り食う淫獣。


こいつは女の敵だ……。


「例え、この足伊達高校を退学扱いになろうと、お前の様なクズをこのまま野放しにはしておかない!」

女生徒達の為にも。そして、田崎先輩の為にも!!


バチバチッ!!


「…………がっ?!」

身体が、動かない……立てない………。

うし………ろか…………………。

……スタン………ガ…………

ーーーーーー。



「………ぐっ!」


気が付くと私は椅子に縛り付けられて見動きが取れない状態だった。


完全に油断していた…………。


「どこまで汚いんだ、お前は……!」


顔を上げるとパイプ椅子に座った石原がいた。


「さすがは天ヶ瀬ちゃん。回復が早いね。」


石原はいやらしく舌舐めずりをしながら私を見てくる。


「先生、コイツもヤッちゃっていいんすか?」

さっきの生徒達だろう。………………?


コイツら、見覚えがある……………!

田原の取り巻きじゃないか!

何でコイツら、石原と一緒に……まさか!


「あぁ、構わん。ビデオは回してあるからな!」

ここは、体育倉庫か。石原の両脇には、三脚に取り付けられたビデオカメラが私に向けて設置されていた。


「くそ、離せ!私はお前達が触っていい女じゃない!私に触れていいのは田崎先輩だけだー!」

私は大声を上げて暴れた。男達が私のセーラー服に手を掛けたその時だった。


「ここにいたか、天ヶ瀬!」

田崎……先輩……!?なんで………?


体育倉庫の扉の向こうから田崎先輩の声がする。


「今行く。」


ーーー。


ガシャァァァン!!!


上部に取り付けられた窓ガラスが割れて田崎先輩が飛び込んできた。


「ってぇー……………。」


ゴロゴロと転がりながら飛び込んできた先輩は、硝子の破片で体中が血まみれになっていた。


田崎先輩は直ぐ様、踵を返し、入り口の鍵を開けた。


扉が開くと、そこには田原先輩が立っていた。


「女の為とはいえ、無茶し過ぎだ、阿呆。」

田原先輩が田崎先輩を小突く。


「さて、説明してもらえますか?クズ共。」

田崎先輩がまさかの口調で石原達を睨みつける。


「おい、田崎?大丈夫か?!変だぞ、お前。」

流石に田原先輩も異変に気が付いたようだ。


いつもの先輩じゃない……言葉遣いも覇気も全然違う……。


「おい、クソガキ共!撮影の邪魔しやがって!お前ら、こいつらを片付けてからヤれ!」

石原の声に田原の取り巻き達が動く。


「テメェ等、こんな事にまで手ぇ出しやがって!」

田原の言葉に

「今更善人ヅラかよ。女に負けた見掛け倒し君!」

取り巻きが田原に向かってゲラゲラと笑う。


「田崎と一緒にくたばり……な?!」

取り巻きの一人が吹っ飛び、体育用具に突っ込む。


ガチャガタガタ……!!


崩れ落ちる体育用具。


取り巻きを吹っ飛ばしたのは、田原……ではなく、田崎先輩だった。


田原先輩もあ然としている。そりゃそうだ、自分の虐めていた人間がまさか強いなんて誰も思わない。


「本当は手荒な事はしたくなかったが、どちらにせよ、謹慎も食らってるし、こんなクズ相手ならどうって事無いでしょ。」

田崎先輩、どうしたっていうんですか!



さっきの技はシュートボクシングで良く使われる『フライングニー』か!?


でも、何故田崎先輩が……。


ーーー解説しよう!

フライングニーは高く飛び上がり、相手の顔面に目掛けて膝蹴りを放つわざである。


「ボコボコにしてやるよ、いじめっ子共!」


キーンコーンカーンコーン…………。


6時限目終わりのチャイムだ。

田崎先輩の声は殺意に満ち溢れていた。

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