第6話 天ヶ瀬対刈谷

昼休みが終わり、午後の授業が始まる。

何事もなく、時間は過ぎてゆく。 


天ヶ瀬と田原の件があってからというもの、田原は当然だが、他の奴らも俺に普通に接してくれるようになってきていた。


5限の授業が終わり、休憩時間になった時だった。


「キョウくーーん!!」


教室のドアを開けた瞬間から、俺の位置を把握して飛び込んでくる刈谷。


「離れてください、先輩!」


いつの間にか、目の前には天ヶ瀬が立って構えていた。


「フォーリャ!」


飛び込んでくる刈谷をアクロバティックな蹴りで吹き飛ばす天ヶ瀬。


なんだ。今の蹴りは……。

見たことない……。回し蹴り?いや、違う!


第一、天ヶ瀬の言ったフォーリャって何だ?


刈谷がぶつかった机や椅子がガラン!ガタン!と激しく音を立てて崩れ落ちる。


「天ヶ瀬ェェ!!」

刈谷が折り重なって倒れている机や椅子を投げ飛ばし、立ち上がった。


常人なら今の一撃で倒れているはず。


「やはり、刈谷さん。只者ではなかったですね。私が蹴りを入れた瞬間、腕で守ってダメージを減らしましたね。」

あくまで冷静な天ヶ瀬に

「アンタねぇ、ちょっとはタイミングってものを考えなさいよね!」


刈谷はそれ程ダメージを受けていないように見える。


やはり天ヶ瀬の言うように、腕で攻撃を受け流したのだろう。


「天ヶ瀬さん、そんな甘っちょろい蹴りで私を倒せると思ったの?」


刈谷は口から垂れた血液を指で拭うと、ペロリと舐めた。美少女台無しやん……。


トロール(失礼)を彷彿とさせるその回復力で刈谷が仕掛ける!


「キョウ君は渡さない!」

刈谷は机のうえに飛び乗りジャンプすると左脚を大きく振り上げた!


どよめく生徒達。天ヶ瀬はしっかりと刈谷の脚の軌道を読むかの様にジッと見据える。


ドンッッ!!!


鈍い音を響かせながら刈谷の踵落としは……天ヶ瀬のクロスした腕にしっかりと防がれていた。


ピンクのフリルか……。俺が最低な事を思っている間に勝負は付きそうになっていた。  


組んだ手を振り払うと刈谷は一瞬体制を崩し、よろめいた。


すかさず天ヶ瀬が動く。逆立ちのような体制を取ると刈谷の首を両足で締め上げていた。


この時。刈谷の右腕は天ヶ瀬の両脚の間に入り込んでいた。


刹那ー


「ぐああああはぁぁぁ!!!ぐぅぅぅ!」


刈谷のうめき声がする。


関節技が決まっているんだ。首は固定され動けず、右腕は両脚に挟まれている。


その状態で間接技をかけられたんだ。


「天ヶ瀬、もうやめろ!もう決まった!」

俺の言葉に天ヶ瀬は技を解く。


「刈谷さん、私達の仲を裂こうとする者は誰であっても容赦はしない。例え、あなたであっても。」

天ヶ瀬は立ち上がりスカートを払うと、刈谷を睨みつけてそう言った。


「ーーーまだ、諦めたわけじゃないから!」

そう言い残し、刈谷は教室を後にした。


「田崎、天ヶ瀬、刈谷はいるかー!」

やべ、石原だ!誰か先生呼びに行ったな!

逃げる間もなく、石原登場。


「お前ら、全員後で生徒指導室に来い。刈谷にも伝えとけ!」

結局、こうなるんだよな……。


石原はドスドスと歩いて去っていった。


刈谷を呼び出したあと……。

もう既に生徒達は6時限目に入ろうとしていた。


「先輩、すみませんでした。私のせいで……。」

頭を深々と下げて謝罪してくる天ヶ瀬だっだが。


「なぁ、天ヶ瀬。成績優秀でスポーツ万能なお前がこんな事してたら、進学に響くぞ?」


「しかも、俺の為とはいえ、やり過ぎだ!さっきの技も、素人目に見ても本格的なやつだった。確か色々習っていたと言ったが。」


俺は今後の為にもキツめに天ヶ瀬を叱った。


「フォーリャと、先程の関節技は確かに本格的な武術です。手加減はしましたが……。申し訳ありませんでした。」

頭を深々と下げてくる天ヶ瀬。


「謝る相手が違うだろ? 謝るなら刈谷に謝れ。俺じゃない。」


俺の言葉に間髪入れず


「それはできません。彼女は先輩に危害を加えてくる害獣。それを排除するのが私の役目。」

そう言い放つ天ヶ瀬に

「その通りね。こんな害獣が側にいたんじゃ、キョウ君が可哀相だわ。私が貴女を排除してあげるわ、天ヶ瀬さん。」


ーーー駄目や、この二人。


全然、人の話を聞くタイプの人間じゃない。


「石原先生に呼ばれていましたわね。行かないと。」


天ヶ瀬は刈谷の言葉など気にせずにスタスタと歩いていく。俺はガタガタになった机と椅子を直し、二人を追いかけた。


こうして三人、内二人は火花を散らしながら生徒指導室に向かっていった。


「謹慎だな、こりゃ。」

俺はボソリと呟いた。


ーーー生徒指導室


「田崎は一週間の謹慎、天ヶ瀬、刈谷は一週間の校内清掃をする事、以上!」

愕然とする一同。


「石原先生、その処罰はおかしいです!元々喧嘩を仕掛けたのは私です。確かにこの害獣と喧嘩していましたので、害獣と同等の処罰は納得しますが。田崎先輩の処罰はあんまりです!」


天ヶ瀬はチラッと刈谷を見ながらそう言った。


「何ですって?余りにも小さな声で全く聞こえませんでしたが、とにかく、キョ……田崎先輩の処罰はおかしいです!」

刈谷も同じく俺を庇う。


確かにおかしい処罰かもしれないが、元はと言えば、俺がもっと早く天ヶ瀬について対応していたら、こうはならなかったはずだ。


「二人共!これは決定事項だ!異議があるならば、処罰を更に重くする!」

石原の怒声が生徒指導室に響き渡る。


「わかりました。謹慎致します。」


俺は深々と頭を下げるとその場を後にしようとする。


「それまでにお前の席が残っているといいがな。」

石原はニタリと笑って席を立ち、俺の肩を叩いて出ていった。


「何なの、アイツ!いつもあんな感じなの?!」

刈谷が怒りをあらわにする。


「いえ、私達は特に。恐らく田崎先輩に対してのイジメ行為でしょう。」


天ヶ瀬の言うとおり、俺は事あるごとに目を付けられていた。


以前は田原達に殴られている所を見ていながら、目の前を通り過ぎて行った程だ。


「私があの方、消してきましょうか?」

サラッと言うなよ……。


「だからそういうのは無しだ!」


「わかりました。」


天ヶ瀬はそういうと教室へと戻っていった。


「彼女の割に、イヤにあっさりしてるわね。もしかして、本当は嫌われてるんじゃない? 私に乗り換えてもいいのよ?」

んー、確かに天ヶ瀬にしてはアッサリしてたな。


いつものアイツならボコボコに相手を叩きのめしそうなのに。


「キョウ君?」

顔を覗き込んでくる刈谷。


「あ、いや。何でもない。とにかく俺は一週間の謹慎だ。」

俺はそういうと教室へと足を進めた。


「ちょ、キョウ君!キョウ君!?」

刈谷の言葉も俺の耳には入ってこなかった。


「これがイジメかよ………。」

俺は悔しくて悔しくて唇を噛み締めた。

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