第3話 憂鬱な日々と美少女の目的2

ガラガラガラ……。

ドアをゆっくりと開ける。


やはり授業は始まっていた。みんなから向けられる白い眼差しが突き刺さる。


このまま逃げてしまいたい。



「すみません……遅れました……。」

俺はそそくさと席に着こうとする。

その時だった。


「田崎はいるか!?」 


ドアの向こうから男性の声がする。 この声は生徒指導の石原先生!


ガラリとドアが開き、巨体が姿を現す。

やはり生徒指導の石原先生か……。


まさか………!?


田原の席に目をやると、そこに田原は居なかった。


「何で俺が来たか、分かっとるみたいじゃな。 一鍬田ひとくわだ先生、ちょっと田崎をお借りします。」


「ど、どうぞ。」

一鍬田先生はその威圧に押され、後退る。


ーーーしばらくの後


俺は生徒指導室にいた。 天ヶ瀬も一緒に。

「お前ら、田原に何をした。 正直に話せ。」

石原先生の問いに全く動じることなく、天ヶ瀬が口を開いた。


「先生はご存知でしたか? 彼、田崎先輩がイジメに遭っているのを。」


冷たく、鋭い口調で石原先生に問いかける。


「田崎が? そんなわけないだろう。 大体、それと今回の件に何の関係があると言うんだ!」 


「田崎先輩が田原先輩達に追われていたので、私が田原先輩を倒しました。 手を上げてきたのは田原先輩が先です。」 


彼女の発言には一片の迷いも無かった。



「証拠はあるのか!? いい加減な事ばかり抜かすと停学扱いにするぞ!」 


石原の奴、完全にこちらを悪者にする気だな。


「ありますよ?」 


天ヶ瀬がスマホを机に置く。


「ここに映像が残っています。 因みに石原先生の脅迫まがいの発言も記録されていますが、如何致しましょう。」


「再生してみましょうか。」 


音声レコーダーから、田原達とのやり取り、石原先生の暴言が生々しく再生される。


ピッとレコーダーを止めて、天ヶ瀬がギロリと石原先生を睨む。


「こ、今回は田原にも非はあるようだし、戻ってもいいぞ。」

石原の奴、都合悪くなるとすぐこれだ。


昔から変わってないな。


「石原先生」


スマホをポケットに入れた天ヶ瀬が口を開く。 


「田崎先輩に謝って下さい。」


「あ?!」


「謝って下さい!!!」

天ヶ瀬が怒声を浴びせた。 どうしたと言うんだ!?


「天ヶ瀬、俺はいいから!」 


「良くありません! 間違いは誰にでもあります。 でも、ソレを認めない人は許せない! 生徒指導の先生ならば余計にです!」

強い口調で石原先生を責め立てる。 さすがは元風紀委員。


暫くおいて


「田崎、すまなかった。」

石原先生から謝罪の言葉を貰い、俺達は生徒指導室を後にした。


「ありがとう、天ヶ瀬。 天ヶ瀬がいってくれなければ、俺は停学処分だった。」 


「いいんですよ、気にしないで下さい。 それより、もう一箇所寄りたい所があるんです。 一緒に来てもらえますか?」 


俺には断る理由なんて無かった。


「分かった。 で、どこに行くんだ?」 

俺の問いに、前を歩いていた天ヶ瀬がこう言った。  


「保健室です。」


……え?




保健室まで来た俺と天ヶ瀬。

歩いていく天ヶ瀬。


一番奥のベッドのカーテンをおもむろにシャッと開けた。


そこには、田原が後頭部を両手に乗せて、不貞腐れたように寝転がっていた。


「うぁお!な、何だ、いきなり!」

いきなりカーテンを開けられて余程驚いたのだろう。


ベッドから落ちそうに仰け反った。


「あ!お前!さっきはよくもやってくれたな!」

天ヶ瀬を指差してそう言った。


「はぁ。確かに私が蹴りましたね。」

しれっと言う天ヶ瀬。 あれはやはり蹴りだったのか。速すぎて見えなかった。


「何の用だよ!謝罪なら土下座しろ、土下座ァ!」


「…………。」 

天ヶ瀬は何も言わない。


「おい、何とか言ったらどうなんだ!?」

田原の勢いは止まらない。


と、その時だった。


「用ですか。土下座ではありませんが、用はありますよ?」

天ヶ瀬が俯いて呟いた。


「貴方に」


「トドメを刺しに来ました。」

天ヶ瀬の後ろにいるから表情までは分からないが、それでも……凄まじい殺意と悪寒を感じた。


「ひっ………!!」


田原が恐怖からか、悲鳴にも似た声を上げて、後退る。


「あ、天ヶ瀬!何を言ってるんだ!」


「だって、私の先輩を虐めてたんです……よ?」


ーーーーーん?


私の、先輩?


いくらさっき付き合う事になったとはいえ、何という大胆な発言……じゃなくて!


「あ、あああ天ヶ瀬!いいくら、そのつつつ付き合う事になったとはいえ、トドメを刺すってのは…やり過ぎだぞ?」

冷静を装いながら、しどろもどろになる俺。


「先輩がそう仰るなら、止めます。ですが、次また先輩に何かあったら……分かってますよね、田原先輩?」

天ヶ瀬が静かな怒りのオーラを纏いながら田原を睨みつける。


「わ、わかり……ました。」

流石に田原もあの殺気を感じて、身の危険を憶えていたようだ。


取り敢えずは、奴に釘を刺す事に成功したようだ。

怯える田原を尻目に、俺達は保健室を後にした。


「なぁ、天ヶ瀬。」

「はい、なんでしょう?」

ニコニコしている。


さっきの猛烈な殺気を放っていた天ヶ瀬とはまるで別人のようだ。


「あのな、さっきみたいにトドメを刺しに来たとか、軽く言っちゃ駄目だ!」


「…………。」

天ヶ瀬はキョトンとしている。


「……天ヶ瀬?」

気を悪くしたかな。 でも、こういう事はハッキリさせといた方がいいからな。


「……わかりました。先輩がそう言われるのでしたら、殺すのは止めておきますね。」


うわーーーーーーーーーーーーー!!!


一番聞きたくなかった言葉をサラリとこの人はーーーーーー!!!


「はは、そうしてくれると助かるよ……。」

俺はとんでもない人と付き合ってしまったのかもしれない……。

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