第2話 憂鬱な日々と美少女の目的

「ぁあ!?何だお前は!邪魔すんじゃねぇよ!」 

田原の怒号にも一切ひるまない彼女。


「邪魔すんなら、女だろうが容赦しねぇ!」  

田原が拳を振り上げる。


ー刹那ー


俺の目に飛び込んできたのは白目を剥いて倒れ込む田原だった。


ーー何があった?


あまりにも一瞬の出来事で、全く理解できなかったが、田原の右頬が赤く腫れあがっていた。


まさか…ハイキック?いや、パンチか?


どちらにせよ、この子の放った一撃には変わりないようだ。


「まだ、やりますか?」

後輩の女の子が静かに口を開く。

その口調には鋭く、そして重みがあった。


ヨロヨロと立ち上がる田原。


余程ショックだったのだろう、仲間に担がれながら何も言わずその場を去っていった。


こういう時は定番だと「覚えとけよ!」とか、捨て台詞を残していきそうなものなんだが…。


ひと呼吸おき


「大丈夫でしたか、先輩?お怪我はありませんでしたか?」

後輩の彼女が声をかけてくる。


「あぁ、大丈夫。」

情けない……。

女の子に、しかも後輩に助けられるなんて。


「あ、あの……」

彼女が声をかけてくる。


「は、はい……?」

「お名前教えてもらえませんか!?」


……………おや?

聞き間違いかな、これは。


待て、落ち着け、きっとこれはただ単に社交辞令的な名前教えて下さいっていうアレだ、うん。


「あ、あぁ、俺の名前ね。えと、田崎彊兵。」

平静を装ってみたけど、声は裏返るし、発音はおかしいし……最悪。


「面白いですね、先輩!あ、私も。私の名前は天ヶ瀬マリアと申します。宜しくお願いします、先輩!」


天ヶ瀬…マリア?


聞いたことがある。確か、テストは毎回学年一位の天才。

学園一の美少女とも称されていたはず。

一時期、風紀委員も務めていたとか。

……って、ストーカーかよ、俺。


「先輩?」


覗き込むように天ヶ瀬が声をかけてくる。


「あ、あぁ、悪い。何でもない。とにかく、さっきはありがとう!可愛かった。」


………ん?


わしゃ、今とんでもない事を口走らなかったか?


可愛かった?

違うだろ!そこは「助かった!」だろ!

何が言っちゃってんの、俺は!

慌てて、彼女の顔を見る。


「………。」

俯いてらっしゃる!!

引かれた?ドン引かれてらっしゃる!


「あ、あの…さっきのは、その…。」


しどろもどろになりながら弁解しようとするが、何を言えばいいか、分からない。


「先輩。」

重い空気が俺を包み込む。


「ひゃ、ひゃい!」

情けない声の俺。完全にビビってしまった。


「私と…付き合ってもらえませんか?」


…………え?

…………ん?


ちょっと待て、落ち着け俺。


耳の掃除は一昨日したばかりだし、聴力検査も別に引っかかったわけじゃない。


……て、事は聞き間違いではない?

なんで、俺?


「あ、あの……それって、えと、こ、告白です……か?」

他から見たら美女と野獣、いや、美女ともやし。

絶対に釣り合わないやん。


「そうですが……ご迷惑でしたか?」


「いや、いやいやいや、嬉しいんですが、何で俺なんですか?」

そう言うと彼女はじっと、俺の目を見つめてくる。 そして………。


「私は、貴方を守りたい!! 貴方を助けたいんです!! それが理由じゃ駄目ですか?!」

いやいやいや、壮大過ぎる理由だよ!


いくら俺がいじめを受けてても、先に手を出しちゃったこの子が悪くなってしまう。


「あの、さっき助けてくれたのは有り難いんだけど、君が先に手を出しちゃったら君が悪くなってしまう! だから、手を出しちゃ駄目だ! いくら、俺を守ろうとしてくれても!」


「………………」 

彼女は口を閉ざし、俯いてしまった。


言い過ぎたか? いや、彼女の為には、これくらい言わないと。 って、何を彼氏みたいな考え方してんだ、俺は!


「では、相手の攻撃を受けてからならどうでしょうか?」

彼女が突如、口を開く。 


「へ?」

間抜けな返答だな、俺。


「正当防衛という言葉があります。相手が攻撃をしてきた後の反撃ならどうでしょうか。」

彼女がズイッと歩み寄ってくる。

真剣な眼差し。 曇り一つない。


「……わ、わか」


キーンコーン、カーンコーン!


始業のベルが鳴る。


「や、やべ!授業に戻らないと! じゃあ、また今度話そう!」

俺はそそくさとその場を後にする。


「先輩! 待ってください!」

彼女の呼び止める声にも反応せずに。


彼女が一体、何の目的で俺を守りたいのか、具体的な理由が分からないし、相手は不良達。


彼女が、俺を守ろうとする事により、彼女自身に危険が及ぶ恐れもある。


なんにせよ、理由がハッキリするまでは彼女とは付き合えない。


「そもそも釣り合ってない。」

俺はそう呟き、教室のドアを恐る恐る開けた。

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