あおあお

雨世界

1 いつまでも泣いていると、幸せが逃げちゃうよ。

 あおあお


 ほら。泣き止んで。


 本編


 いつまでも泣いていると、幸せが逃げちゃうよ。 


 青色の光が差し込む部屋に君がいた。

 

 君は青色の光が差し込む窓際の席に座って、そこでじっと、真剣な顔をして、なにかの本を読んでいた。(真っ白な、分厚い本だ)僕はつい、そんな君の姿に見とれてしまって、ドアを開けたままで、部屋の中には入らずに、そこからずっと、そんな君のいる青色の風景を見つめていた。


 それは有名な中世の画家が(とても長い時間をかけて)描いた一枚の絵画のように美しい風景だった。

 君は、本当に綺麗だった。

 だから僕は、そんな君に、君のいる世界に見とれてしまった。


「なに?」

 いつまでたっても部屋の中に入らずに、じっと君を見ていると、僕のほうに少しだけ視線を向けて、不機嫌そうな、小さな声で君は言った。


「ううん。なんでもない」

 僕はそう言って、部屋の中に移動をした。

 そして、僕は君の前の席に座った。


 なにかが始まるような予感がした。


 僕は、君のことが大好きだった。この気持ちをどうしても君に伝えたいと思っていた。


 でも君は、恋にはあまり関心がないようだった。

 君はいつも難しい本ばかりを読んでいた。

 世界の秘密や、科学の知識を手に入れることが、君の最上の喜びであるように僕には思えていた。

 

「地球ってさ、どうして青いのかな?」

 僕は言った。

「地球が青い理由?」

 僕を見て君は言った。


「そう。この星が、青色をしている理由。それってさ、なんだと思う?」

 自分で言っておいて、これはとても古くて、すごくいろんな人たちに議論されたり、いろんな違う意味において、表現されたりしてきた言葉だと思った。


 でも、僕はそんな問いを君に言った。


 君がどうして、この星は青いのか、その理由をどう理解しているのか、それを君に聞いてみたくなったのだった。


「それは、光の波長が、とか、空が青いのはなぜか、とか、海が青いのはどうしてなのか、とか、そういう科学的な意味で聞いているの?」君は言う。


「そういう答えでもいい。でも、そうではなくて、君の考えている答えでもいい。感性の答え。どっちでもいい」僕は言った。


「……感性の答え」

 君は少し体を引いて、その細くて白い指を綺麗な顎に当てて、そして、ふとすぐ近くにある窓から、外に広がっている青色の空の風景を見て、なにかを考える仕草をした。

 僕は、そんな君のことを、じっと見ていた。


「うーん。なかなか難しいな。感性の答えか。……つまり試されているのは私の心ってことだよね?」

 少しして、僕を見て、君は言った。


 僕は無言のまま、にっこりと君に向かって微笑んだ。


「……泣いているから。ううん、違うな。うーん。そうだな。まだ、この星が若い星だから。それとも、単純に青色が好きだから。違うな。えっと、……難しいな。あなたの答えはどうなの?」


「僕の答え?」

「そう。あなたの考えは。どうしてこの星は青色をしているんだと思うの?」と楽しそうな顔をして君は僕に聞いた。


「そんなの決まってるじゃないか」と僕は言った。

「え? そうなの? なに? その答えは?」と君は言った。


 そう。そんなの決まっている。

 この星が、地球が青い色をしている理由。


 それは、愛の星だから。


 命のある、星だから。

 冷たくない、死んでいない、温かい、生きている星だから。


 だから地球は青色をしているんだよ。


「愛があるから、かな?」

 と僕は君に言った。

「愛? 愛があると、青色になるの?」とちょっと変な顔をして君は言った。(僕の答えに君は、納得しているわけではないようだった)


「……愛。愛、ね」と君は言った。


「まあ、なんとなく、わからなくもないかな」とにっこりと笑って君は言った。

 それからそっと君はもう一度、窓の外に広がる青色の空の風景を見た。


 君はとても真剣な目をしていた。

 君はとても綺麗な目をしていた。

 君はとても透明な、澄んだ色の目をしていた。


 君はその目で、その青色の中に『愛』を探していたのだと、僕は思った。


 ずっと探している愛を。


 君が本当に、見つけたいと思っているものを。


「今度さ、どこかに遊びに行かない?」僕は言った。

「それって、デートしようってこと?」青色の空から視線を動かして、僕を見て君は言う。


「だめかな?」君を見て、僕は言う。

「別にいいよ」と嬉しそうな顔で、にっこりと笑って、君は言った。


 あおあお 終わり

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あおあお 雨世界 @amesekai

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