Act.15 Re:Start

「・・・また・・・ここ?」

見覚えのある場所だった。

そう、ここには前にも来たことがある。

この廊下・・・。

前回と同様に、窓の外は夕暮れ。

工場のと思われる煙突からは黒いスモッグがモクモクと空に上がる。

・・・汚染されている。

今回も窓の外を覗いてみる。

ただし、今回は隅々まで目をやって。

街に並ぶ建造物。

それは・・・現代日本において建造される代物にしてはいささか古すぎるフォルムをしていた。

何十年も昔。

それも、教科書や歴史資料、テレビを通してでしか見ることのできない風景だった。

既に過ぎ去った風景。

生で見ることなどもう叶うことはないはずだ。

いや・・・。

窓を覗いて、不可解なものが時折ちらつく。

黒いシルエット。

それがもし二足歩行で、体型的に人間のものだと無意識に判別できていたならばそのまま見逃していただろう。

だが、私の目に入った、辺りを徘徊する影のフォルム。

・・・明らかに人間のそれとかけ離れている。

4足歩行。

肥え太ったような姿。

まるでカエル。

口元には、やたら長い触手のような舌を持っているようだった。

シルエットを見ても、カエルにとって特徴的な目は何処を見ても見当たらない。

私にとっては異形の何物でもない。

・・・・人間も・・・いる・・・。

カエルみたいなシルエットばかり見て気が付かなかったが、人間のシルエットも明確に存在していた。

人間のシルエットは特に驚いている様子もなく、さもあのカエル似の異形の存在が当たり前かのように振る舞う。

共存している・・・・のか?

突如、

「どうぞ、お入りください。」

背後の襖から声が聞こえた。

デジャヴ・・・いや、明確に記憶に存在していたことだ。

聞き覚えのある声・・・あの女の子だ。

声に従って、私は襖を開けて、部屋の中に入る。

内装は前に来た時となんら変わっていなかった。

ちゃぶ台はちゃんと部屋の中心・・・大きい窓のすぐ横にあったし、

奥の方には、女の子がちょこんと、笑顔で、座っていた。

女の子は私に笑顔で言う。

「初めまして。」

・・・と。

初めまして?

私は疑問を浮かべる。

そしてそのまま、疑問を口に出した。

「初めまして・・・って、前にもここに来たじゃん。覚えてない?

ほら、テレビの話。モノクロテレビがどうとか夢がどうとか、話したでしょ!!」

初めましてじゃない。

初めましてじゃないのだ。

私は相手が間違えて覚えてしまった記憶を訂正するかのように、女の子に言った。

でも、女の子は考えるそぶりもしなければ、戸惑うそぶりすら見せない。

ただ笑顔で、私の話している内容すら、既に見透かしているように。

女の子は尚も表情を変えず、

「えぇ、確かにテレビと夢の話をしたのは覚えてますよ。」

と返す。

「だったら、何で初めましてなんて言うの!?」

当然の疑問。

何度疑問を投げかけても、女の子は楽し気な笑みを浮かべたまま。

こちらの思いが通じているのかさえ分からない。

女の子は表情一つ変えず言い放つ。

「だって、テレビの話をしたのは、。」

「・・・はぁッ!?」

益々意味が分からない。

疑問。

苛立ちというか半ば呆れ。

それらが私の脳を支配する。

私は確かにテレビの話もしたし、ここに来たことがある。

確かな記憶があるのだ。

なのに・・・一体どういうことなんだ!?

女の子は話し始めた。

「確かに彩奈八雲さんはここに来たことがあります。

でもそれはあなたじゃありません。

あの時にはまだ、あなたは生まれてもいませんから。」

どういうことなんだ?

疑問を口に出すよりも前に、女の子は話を続けた。

「私がここにお招きしたのは、アストロワン・オリジナルです。

アストロワン・オリジナルの人間態・・・いや、分離態と言うのでしょうか・・・。

その方はあなたと同姓同名で、同じ姿をしていた。

別人である証拠は、あなたが人間だと言う事実そのものです。」

言っていることすら分からない。

数々の疑問が脳裏を支配する。

とりあえず、頭に浮かんだ疑問を、そのまま口に出してみる。

「私は最初っから人間だよッ。しかも、アストロワンって・・・ラピッドエネルギーで動く装甲・・・武器のことでしょ?それに、ここに来た記憶は確かに・・・」

「半分正解で、半分・・・いや、ちょっと間違ってます。」

女の子は尚も続ける。

「アストロワンは・・・今もどうかは知りませんが、本来は兵器じゃないんです。

アストロワンは生きた人。

だからこうやってお迎えしてお話が出来たんです。

人間の姿をしていても、人間ではありませんでしたが・・・。

ラピッドエネルギーには、アストロワンの魂が溶けていたとされていました。

あなた、人間の彩奈八雲が覚えていた記憶は、本来、アストロワン・オリジナルの彩奈八雲が覚えていた記憶なんです。

どういった経緯で移ったのかは知りませんけど、私の記憶ではアストロワンの八雲さんと会った記憶もあって、あなたと会ったのも確かに初めてですからね。

だから初めましてで合ってるんですよ。」

「・・・・・・。」

全ッ然ッッ分からん。

え?何?アストロワンって生きてたの?

話しかけたら喋るの?あれ。

そして最後にと言わんばかりに話を締めくくろうとする女の子。

「その証拠に、CLASS:GAとか居合切りと聞いてもピンと来ないし、『舟』と聞いても何の船なのか分からないでしょ?」

「分からんッ!!何の船ッ!!居合切りなんてしたことないよポ〇モンでしかッ!!」

「あの、具体的な名前を出さないで下さいね。」

もう何か疲れて来たので、質問するのもこれで最後にしよう。

もう難しいこと言ってきたら聞いてないふりする。

「ココ何処?」

ややめんどくさそうに聞いた。

女の子は少し考えて、答えた。

「皆からはドリームランドって言われてます。」

「夢の国?・・・あぁ、ディ〇ニー〇ンド?」

「違いますし具体的な名前を出さないでって言ってるでしょ?」

「じゃあアンタの名前は?」

「私の名前・・・ですか?」

少し考え始めた。

・・・あれ?

何か・・・意識が・・・遠のいて言ってる気がする。

眠いとかそーゆーのじゃなくて、

どちらかと言えば眠りから覚めていく感覚に近い。

目の前の景色が歪んでいる気がする。

「あ、もう時間でしたか。」

女の子は言った。

そして急いで自己紹介を行う。

「私の名前はナイアルラ。」

ナイアルラ?変わった名前。

そして最後に・・・。

「どうか、私を。」

変なの。



布団から身を起こした。

夢オチかい。

「・・・・・。」

私の部屋だった。

勿論私の家の私の部屋。

「・・・・・。」

朝ごはんの支度の為、ベッドの外に出る。

まだ眠気が残っていた。

ゆっくりと階段を下り、ダイニングへ。

ドアを開けた。

ガチャリと音がした途端、

「あ、おはよー八雲ちゃん。」

知らねー声が聞こえた。

そのままドアを開けて、ダイニングに入り、左斜めのキッチンの方を覗く。

知らねー女がいた。

知らねー女が人のキッチンで何やらスーツの味見をしてる。

知らねー女がスープを飲むと呟いた。

「うん、いけるいける。」

何がいけるんだよこのバーカッ。

もう謎の女は無視してパジャマから着替えることにした。

着替え終わるころには、朝食はダイニングテーブルの上に出されていた。

「・・・・・。」

味噌ラーメン二人前だった。

朝からラーメンとかオメー正気か。

謎のエプロン女が聞いてきた。

「あれ?食べないの?」

「食べるよ。」

やや反抗的に言った。

席に座って、謎のエプロン女と向かい合ってラーメンを食べる形になった。

味噌ラーメンは美味かった。

朝ラーメンって意外と素敵ーって思う。

目の前に知らねー女がいなければ。

ラーメン食べながら知らねー女が話しかけてくる。

「いやーお姉ちゃん、ラーメン作るの久しぶりだなぁ。」

「知らねーよばーか。」

目を合わせずラーメンすすりながら私は言った。

「馬鹿って何よッ!!」

知らねー女はちょっと怒った。

私は目を合わせず反応する。

「朝食ぐらい静かに食べさせてももらえないの?」

「朝食作った相手に言う態度?」

「不法侵入者が家主にする態度でもないよねそれも。」

ラーメン食べ始めてから思い出した。

コイツ昨日、私が帰って来た直後我が物顔で私の前に現れた。

私この家の人間ですけど何か?みたいな。

家主からしてみればとんでもなく図々しい女だと思った。

しかも初対面。

何この図々しさ。

この人図々しさの化身なんじゃないの、みたいな。

しかもこの人、私が帰ってきた途端水鉄砲向けてきてたよね。

今思えばあの液体睡眠薬入ってたんだろうなと見当もつく。

要するに、

「誰もいない家に不法侵入した挙句家主が帰ってきたら家主本人を気絶させてそれらの行為をラーメン一杯おごらせる程度で済まそうという魂胆なんですかそれは。

しかも身分もお姉ちゃんとか言って偽ってたし。

『お姉ちゃん、妹気絶させちゃったからお詫びに朝ラーメン作ってあげたよ万事解決だねvサイン』作戦なんですか?もしかして。」

「・・・・。」

エプロン女は引きつり顔で、冷や汗かきながらラーメンすすってた。

図星だった様子。

かなり図星だった様子。

冷や汗をラーメンの暑さでごまかしているようだった。

完全にどう乗り切るか必死で考えてるのが丸見えだった。

私は既にラーメンを食べ終えていた。

どう見ても挽回の余地はナッシング。

不法侵入と家主気絶はラーメン一杯でもみ消すことが出来ないことなど明々白々。

つーかなんでラーメン一杯で行けると思ったよッ。

エプロン女は必死にラーメンすすりながらこの場をどう乗り切るか考えてるようだった。

つーか必死にラーメンすすってた。

もうほぼ具材も無くなりつつあった。

私は呆れ気味に言う。

「・・・普通に考えて、警察沙汰だね。」

エプロン女は瞬時にラーメンすするのをやめガタと立ち上がる。

焦ってる。

この女、完全に焦っている。

ようやく言葉を喋りだした。

「お、お姉ちゃん・・・・何でもするからッ!!八雲ちゃんのメイドでも奴隷でも何でもするからッ!!」

どんな提案だよ。

両手をブンブンさせながら自称お姉ちゃんは言った。

私は答える。

「じゃあ警察に・・・。」

「駄目ッッ!!もうホントに謝るッ!!土下座もするからッ、警察沙汰はホントにやめてッ!!!八雲ちゃんの性的メイドもするからッ、性的奴隷でもいいからッッ!!!」

エプロン女のスライディング土下座が決まった。

私は言う。

「性的付けたら許されるわけじゃないからね。つーか性的メイドって何。」

「主に性的なことをするメイドのこと。」

「嫌だよそんなメイド。」

「性的家政婦だってやってみせるからッッ!!」

「何も変わってねーよ。」

深々とこれ以上ないぐらい土下座をする。

なんなら額こすりつけてた。

呆れた。

思わずため息もついた。

呆れたので、とりあえず声を掛ける。

「いいから顔上げて。」

エプロン女は恐る恐る顔を上げた。

もう泣きそうな顔してた。

「ゆ・・・許して・・・くれる・・・?」

「ホントに反省してるならね。」

「しッしてるよッ。本当に何でもするからッ。特殊なプレイでも・・・」

「私を何だと思ってんの!?マジでッッ!!」

「ひぃいぃッごめんなさいごめんなさい!!」

言っとくけど、私はそんなエロい女ではない。

マジだから。

マジだからね。

「良いから座って。」

「・・・・・・はいぃぃぃ。」

エプロン女はうなだれたまま椅子に座る。

私はなだめなる。

「ほら、ラーメン伸びるよ。」

「いえ、もう食べきりました。」

「・・・あ、ホントだ。」

とりあえず、この自称お姉ちゃん及びエプロン女の素性を聴くことにした。

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