Act.14 different humans
「食らいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
私は叫ぶ。
ハンドル・・・リモコンのボタンに添えられた親指にさらに力を入れる。
「チッ!!」
明日香は舌打ちをした。
・・・勝ってみせる。
この戦い、勝ってみせるッ!!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」
私の画面の右下の順位が切り替わっていく。
明日香が1位で、私が2位だ。
「こいつを食らいやがれぇぇぇぇぇッ!!」
左手の親指で十字キーの上を押す。
「なッ、赤甲羅!!」
発射される赤甲羅。
しかし、
「当たってたまるものかよッ!!」
言って明日香は、甲羅がカートに当たる直前何かを落とした。
そして・・・砕け散る甲羅。
私は気づく。
「バ・・・バナナッ!!」
あの物体の落ちるスピードと言い防御力と言い、バナナとしか言いようがない。
バナナで甲羅を防ぐには、甲羅が軌道上を真っ直ぐ進んだ瞬間を見極めなければならない。
それも、私の放った甲羅がカートに当たるすれすれを・・・。
正直、侮っていた。
この女・・・出来るッ!!
ゴールは迫る。
ボックスを開ける。
追いつけるかどうかはこのボックスにかかっている。
明日香との差は数メートル。
私は・・・勝たなきゃいけないんだッ!!
この戦いにッ!!!
来いッ・・・来いッッ!!
回るアイテムルーレット。
出たのは・・・キノコッ!!
「・・・・よしッ。」
私は十字キー右を押すッ。
キノコによりターボがかけられ、明日香との距離が縮まってゆく。
「甘いぜッ、私を追い越せるとでも?」
だが・・・僅かに明日香の方が上だ。
自分は抜かれない。
明日香はそう思っているだろう。
だが私は、奴のそんな愚かな想定を、平然と笑ってみせた。
私はもう一度、親指を十字キーの右に添える。
そして指に、軽く力を込めた。
再びターボがかかり、明日香の車体を・・・優に追い抜いた。
「なッ、キノコは先程使ったはず・・・!!」
明日香は言って気が付いたようだった。
「まさか・・・もう一つッ!?」
「そのまさかさッ。」
私のアイテムボックスは一つじゃあなかった。
甲羅の奥に仕舞われていたキノコ。
そう、先程手に入れたキノコと今使ったキノコ。
ボックスには二つのキノコが用意されていたのだ。
私は明日香に言ってやった。
「明日香ちゃん、切り札っていうのはさ、最後まで取っとくから切り札っていうんだよッ。」
「チ・・・クショウッ」
私は1位でゴールした。
「ッッ・・・・シャアァッッ!!私が全米チャンプだァァッッ!!!」
「うるせぇッ!!つーかここは日本だッ!!」
「つーことでこのやたらデカいプリンとなんか美味しそうなミルクティーは私のものだァァッ!!」
「畜生ッ賭けるんじゃなかったァァァッ!!!」
愉悦ッ!!
嗚呼愉悦ッ!!
「オーホッホッホッホッ!!これでこの私が明日香さんよりも人・間・的に上だということが証明されましたわねオーホッホッホッホッ!!!」
私は高笑いを上げた。
「・・・くんにゃろうッ・・・レースに勝っただけで調子に乗りやがって・・・ッ
数発殴らせろォォォォォォッ!!!!」
怒る明日香。
パンチを軽々しくよける私。
愉悦オブ愉悦だったオーホッホッホッホッ。
・・・・と、
「何だ?やけに騒がしいが・・・」
私の目に映り込む見慣れた人物・・・
夕凪ミナミだった。
そんでここはロビー。
私たちは携帯ゲーム機で楽しく・・・時に怒声などを上げながら遊んでいた。
・・・ごめんなさい。
ミナミはまぁ興味本位で聞いてきた。
「其方ら、何してたのだ?」
私は元気に答える。
「ん?マ〇オカート。」
「具体的な商品名出すなよ。」
明日香に言われた。
まぁあまりにも声を出し過ぎたとは思ったけど少し、ミナミは気にしてなさそうだった。
試しにミナミを誘ってみることにした。
「ミナミちゃんも遊ばない?」
「あぁいや・・・レースゲームはちょっと・・・だな・・・」
ミナミは困ったような微笑を浮かべた。
「私はその・・・激しく動く車が苦手なのだ。」
「え、そなの?ゲームだけど・・・」
私は少し驚いた。
ミナミは言う。
「あぁ・・・一般的な安全運転と呼ばれるものとかけ離れた車の動きが小さき頃から苦手なんだ・・・特にこーゆーファンタジックなレースゲームだと不規則でアバウトな・・・激しい動きが多いだろう?なんか現実的でなくて苦手なのだ。」
ミナミの顔若干青ざめてた。
絶対昔なんかあったな。
絶対昔何かあったわアレ。
「だから特に激しい動きもなく交通法に適した範囲内でスピードを厳守したレースゲームなら歓迎するのだが・・・物凄く歓迎するのだがッ。」
「そんなゲーム無くね?」
ミナミの願望にツッコむ明日香。
例え存在したとしても私は今後持ち合わせる予定はない。
残念ながら。
流石になんかスポーツカー類にトラウマ抱えてそうな人間に無理矢理ハンドルを握らせるなどという非人道的な行為をさせる程私達は悪魔的な思考を持ち合わせているわけではない。
ミナミと〇リカーするのは叶わぬ夢という奴だ。
いや別にマリ〇ーに固執してるわけじゃあないのだけれども。
「つーかそういえば、ミナミちゃんは何してたの?」
私も興味本位で聞いてみる。
「?私か?私は・・・」
と、先程から左手に黒くて長い棒状の何か持ってるなーとは思ったけど、その棒状のものを私達に見せてきた。
そして声色一つ、表情一つ変えず言い放つ。
「真剣を研いでいた。」
「「は?」」
思わず声を揃えてしまう明日香と私。
ミナミは少々ムッとした顔になって、
「だから真剣を研いでいたのだ。何も不思議なことはないだろう。」
と、さも女子高生は真剣を研ぐのが当たり前・・・的な雰囲気を醸し出してくる何この人ヤバイ。
私は明日香の方をちらと見て、試しに聞いてみた。
「明日香ちゃん、最近の女子・高・生の間では真剣研ぐのが流行ってるの?
#今日も真剣研いじゃったキャピっみたいになってるのもしかして。」
「んな訳ねぇだろッ、あってたまるかそんなハッシュタグッ!!
つーかフォロワーどころか警察よって来るからねッ、
明日香のツッコミが帰ってきた。
良かったー
流行ってなくて良かったー
てっきり時代のニューウェーブに乗り遅れるところだったー。
ミナミは不思議がるように言う。
「我々は戦が待っている身。何時でも飛び出せるように、日々準備をしておくのは当然だろう?」
それに対して明日香は言う。
「か~ッお前さん、何だかあれだな・・・カッチカチだな何か。」
ため息交じり、ちょっとあきれ気味に。
ミナミはまたもやムッとする。
「カッチカチとは何だ。私の体は柔らかい方だぞ色んな意味で。」
「いや、そーゆー意味じゃあ無いと思う。」
フォローを入れる私。
じゃあどーゆー意味なのだと聞かれ答える明日香。
「何だろう・・・脳みそ・・・?いや、違うな・・・雰囲気・・・・?
うーん・・・・・脳筋ってことだなッ。ハハハハハ」
「斬るぞッ!!其方斬るぞッッ!!!」
流石に怒るミナミ。
鞘から真剣抜くまで至ったので流石に抑えた。
怒り狂うミナミを何とか落ち着ける。
絶対今のは明日香が悪いけど、頭に血が上りやすいのもどうかと思う。
いやそれは私もミナミも人のこと言えないのだけれど。
落ち着き始めたところで私はミナミをなだめた。
「まぁまぁ、明日香ちゃんが言いたかったことはミナミちゃんにはもっと心の余裕があってもいいんじゃないの?ってことだから。リラックスすることも重要なことでしょ?時として。」
そして反省の色を示す気サラサラナッシングな明日香。
「そーだぞ。緊張感高めすぎが良くないんだぞ。だから頭に血が上りやすいんだ。」
「お前がゆーかッ、つーか少しは反省しろよ。」
「へーい」
とりあえずミナミはようやく刀を鞘に納めた。
そしてため息をつく。
何か・・・自分の行動を反省している様子。
そんな気にしなくていいのに・・・とも思う。
明日香は自動販売機のもとに向かっていった。
私に飲み物取られたせいか、また新しい飲み物買いに行ったのだろう。
ふと、ミナミは呟いた。
「心の余裕・・・か・・・。」
「?どうかした?」
試しに聞いてみる。
ミナミは答えてくれた。
「いや・・・昔も師匠が言っていたことを思い出したんだ。どうも苦手なのだ。心の余裕を持つことが。」
「ミナミちゃんに師匠がいるの?」
初耳だった。
なんか・・・まぁ先程の明日香の言葉を借りるのは癪だが、何というかその・・・やはりミナミには固い感じのイメージが拭えないので、そーゆー『師匠』っていう存在がいること自体には何の不思議もない。
ミナミはその『師匠』について語り始める。
「師匠は私とは真逆で・・・とても自由な人なのだ。何というか、本当に存在そのものが自由を表すが如く人。何事にもラフでフリーダム。自分はノリとフィーリングで生きていると本人が認める程の自由っぷり。キツイのとか疲れるのとかノーセンキュー。何物にも縛られない生き方をする自由の戦士だ。」
「あれ思ってたのとかなり違う。」
相手が相手なのでそのイメージの真逆っぷりに思わず想像が途絶えてしまう。
何というか・・・ミナミの性格そのものがその師匠の譲り受けみたいな雰囲気だったから、全く関係なかったので少しショック。
「会ってみればわかる。溢れ出してくるぞ、自由が・・・。」
「それほどッ!?」
もう・・・恐らく、自由の擬人化みたいな人なんだなぁ・・・と思う。
ミナミが言うほどだ。
それ程自由の化身みたいな人なんだろう。
・・・と、ミナミは考え事をしだしたように私に話す。
「化身・・・擬人化・・・確かに・・・。」
「だから勝手に地の文を読むなッ!!」
もうなんかミナミといえばの定番になりつつあるけど、
その勝手に地の文読んじゃう癖ッ、何とかならないもんすかねぇ!!
「これも師匠直伝の技だ。そーゆー枠組みにも捉われない。
つくづく師匠は自由なお方だ。」
「何一人で悟りきってんのッ!!アンタも割と自由な部類に入るよッ!!」
もうその内第四の壁ダイナマイトで破壊してきそうな雰囲気さえ醸し出される。
ミナミの師匠がデッ〇プールでないことを一先ず願っておこう。
・・・・とまぁ、
「・・・・・。」
師匠について色々語ってくれるミナミ。
とても楽しげに、嬉しそうに。
私は思ったんだ。
ミナミは本当に・・・その師匠のことが、大好きなんだ・・・って。
「当然だろう?」
またかい。
ちょっとため息をついて、興味深くミナミの顔を覗き込む。
そこには清々しく、どこか感傷的で、それでもって、自信に満ち溢れた笑顔がそこにはあった。
そして言った。
「師匠は・・・私にとっての、英雄だからな。」
夕焼け。
太陽が赤く・・・赤く沈みゆく頃合い。
明日香とミナミと別れを告げ、一足先に玄関を後にする。
自動ドアを通過した後、私は振り返って、そびえ立つビルを見上げた。
一見何の変哲もないビル。
しかしここは私達の組織が管理している特別な場所。
ここへ来てどれぐらいになるだろう。
アストロワンとか言う謎のパワードスーツを纏わされ、
流されるまま戦った初戦。
そんなこともあったと懐かしめる。
まだまだ最近のことなのに、もう既に昔のような気もしてしまう。
私は沈んでいく太陽の方を見る。
やっぱり夕陽とビルは似合うなぁと、ポケットからスマホを取り出して写真を撮ってみたりする。
撮り終えたら、真っ直ぐ自宅に帰る。
流石に寄り道をする気にはならなかった。
自宅には・・・もうすぐお姉ちゃんが帰ってくる。
もしかしたらそれが今日かもしれない。
早く帰ろう。
私は足早に・・・帰路への道を辿った。
家に着くころには、すっかり暗くなっていた。
明かりの灯る住宅街。
そして夜空に浮かぶ月。
暗くなったとは言ったものの、私が歩く道のり自体は明るく見やすい。
このまま真っ直ぐ・・・そして左を向けば自宅だ。
そして・・・ようやく、『彩奈』と名のついた表札を見つける。
「あれ?明かりついてる。」
私の家に灯っていた電気。
ここ最近は見慣れなかった光景。
電気をつけっぱなしで出て言った記憶はない。
久しぶりに夜電気が点いた自宅を見た気がする。
恐らく・・・お姉ちゃんが帰ってきたのだろう。
門を開ける。
玄関についたらただいまと言おう。
そしてお姉ちゃんと久しぶりに、沢山話をしよう。
漂う若干の冷気。
家の温もりが待ち遠しく、早足で扉の前に向かう。
そしてついに取っ手を手にし、ガチャリと扉を開けた。
玄関・・・及び廊下には、既に明かりがついていた。
「ただいまー。」
言って・・・玄関に腰を掛け、靴を脱ぎ始める。
そしてリビングからのドアが開いたのか、ガチャリと音がした。
そして聞こえる声。
「お帰りなさい、八雲。」
聞こえる声。
聞こえる・・・・声?
その声は・・・違和感を内包していた。
声は私の耳を伝って脳に到達する。
そしてそれを解決すべく、細かい解析が行われる。
そうしてようやく違和感の正体に気が付くことが出来る。
この声は・・・お姉ちゃんの声じゃないッ!!
一秒も経たないうちに、私は恐怖を抱くよりも早く・・・ほぼ反射的に、後ろを振り返る。
そこには・・・エプロン姿の知らない女が立っていた。
銀色の銃口をこちらに向けながら。
疑問が口からこぼれ落ちる。
目の前の光景が・・・まだ正しく理解できぬまま。
「アンタ・・・誰?」
カチャリと音がする。
どうやら相手の持ってる銃のロックが外れたみたいだ。
女は笑顔で私に話しかけた。
「・・・お休み。」
引き金が・・・引かれた。
その瞬間、目の前が突然ブラックアウトした。
停電はありえないと直感的に感じた。
単に感じただけなのだけど。
徐々に意識が遠のいていく感じがした。
黒に吸い込まれていく。
誰がいたのか、何が起きたかも分からないまま、全ては黒に包まれた。
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