Act.4 スパーク

「未確認生命体を多数確認ッ!!深きもの《deep ones》ですッ!!

そして深きもの《deep ones》の軍勢の中心に高生命体反応ッ!!

これは・・・邪神ですッッ!!!!」

「なッ!?」

管制室。

モニターに映る異形の数々。

これまでとは段違いの数。

さらに召喚された

「フォルムからして、ルルイエの邪神だと思われますッ!!」

管制室に飛び交う声。

その中、ナオはモニターを睨みながら前に進む。

作戦の実行責任者は彼女だ。

そして・・・口を開く。

「適合者が到着するまで、ホーク部隊は旧き印エルダーサインポインタを照射しながら邪神に攻撃を開始してください。

被害を拡大させないよう、迅速に有害対象の大元を取り除かなければなりません。それと、ニトクリス主任やアトラスさんに聞きましたが、発生したと思われる魔力電波の解析も並行してお願いします。」

指示を出す。

的確だった。

こんなに早くとは思わなかったが、遅かれ早かれ敵は邪神を召喚するだろうと踏んでいた。

かつていかに神として崇められた生命体であろうと、抹殺対象として認識されればただのバケモノ。

人類にとって害悪である以上躊躇などいらない。

邪神といっても生命体だ。

過去にも邪神を撃破した事例もある。

生命体である以上死は必ず迎える。

新ルルイエ異本によって呼び出された怪物。

時間と空間を超えて顕現した、紛れもない邪神だった。


     ×                            ×


「うぐぐぐ・・・・うぐぉぉぉぉぉ・・・・あだッ!!」

機体のスピードが徐々にゆっくりになる。

かかってたGのせいで腹から昼食が出そうだ。

そしてそのまま頭をぶつけるの図。

いてぇ。

とりあえず急いでコックピットから出る。

手間取っている暇はない。

一刻も早く外に出ないと・・・。

そして・・・。

「なッ・・・・・!!」

瞳の中に・・・有り得ない光景が映り込んできた。

軍勢を成してこちらに進行してくる深きものdeep ones達。

それはこの前と同じだ。

だが・・・

深きものdeep onesの軍勢の後ろに、途轍もなく巨大なシルエットが飛び込んでくる。

巨大なシルエットは軍勢の中心に位置していた。

そう・・・これはパレードだ。

このシルエットの為の祭典だ。

異形たる奴の為の催しだ。

そのシルエットから放たれる、これまで感じたこともない威圧。

「ッ・・・・・。」

私は呆然と立ち尽くしていた。

きっと奴は・・・崇められているんだ。

この深きものdeep ones達によって。

人智を超えた存在。

すなわち、神として。

巨大な異形は・・・こちらを覗いていた。

深きものdeep onesをそのまま大きくしたような出で立ち。

そして・・・触手で囲まれ、まるで絵画のような禍々しさを放つ、その一つ目で・・・。

この世の者とは思えぬ、理解のできないオーラを纏って。


     ×                            ×


とある高級洋食店。

二人席に、アトラスと糸目の女性が座っていた。

「つーことで、俺と付き合ってくれない?」

「嫌です。」

一撃玉砕。

「あの・・・何故・・・ですか?」

「タイプじゃないからです。」

きっぱり言い切った。

糸目の女性は優しそうに言う。

「大体、今回こうしてお会いするのが二回目でしょう?何を焦ってるんです?」

タイタスの心は傷ついた。

何故傷ついたのかは知らん。

なんか傷ついてた。

女性は続ける。

「それに、私は人間の方と関係を持つつもりも今の所ありませんし、単なるご飯のお誘いならまだしも、焦りすぎてなりふり構わず突然好意を持ちかけられても対応しかねますこと?」

アトラスのメンタルはズタボロだった。

安っぽい恋愛は全て見透かされ手の平の上だった。

「それに、私が来たのはプロポーズレクチャーではなく忠告の為です。」

「忠告?」

人間でない者からの忠告だった。

「えぇ、そうです。神の力を兵器利用することに関して・・・私達は懐疑的でして・・・。」

「そんな物騒なモン利用した覚えねぇが。」

「あなた方が『アストロワン』と呼び、崇めたものですよ。

もうそろそろ気付く頃でしょうが、アストロワンは本来兵器ではありません。

邪神や人間が創造したものでもなければ、私達が創造したものでもありません。

私たちの知識の範囲外なので、何が起こるかも知れたものではありません。

ですので、もし何かの間違いで事故や事件が起こっても、対応しかねます。

私達はあなた方のボディーガードではありませんので。」

「随分とキツイ言いようだな。」

「それ程あなた方は危険なことをしているのです。

永劫、私達の力を借りたければ、人類あなた方の所有する兵器を全て放棄することです。か弱で平和的な生命を守護するのが、私達の役目ですので。」

「・・・皮肉か?だがそれは出来ねぇ相談だ。」

「何故です?」

「昔テレビに出てきた宇宙人が言ってたのさ。

人類俺たちの未来は人類俺たち自身で掴んでこそ価値がある・・・ってな。

俺たちがパンドラの箱を掴んでることなんざ百も承知なんだよ。

どんなに他の星から疎まれようと、俺たちは立つぜ、俺たち自身の足でな。

だから捨てられねぇ。

これが答えだ。どうだ、宇宙人さんよ。」

「残念ですこと。あなた方は自らイバラの道を選ぶのですね。

素直に放棄していれば平和が保障できたものを。

では、先ほど現れた邪神についてもノータッチということで。」

「あぁ、恐らく勝つさ。」


     ×                            ×


「八雲ッ!!」

「!!」

背後からの声で、我に返った。

声から少し遅れてミサイルも飛んでくる。

・・・・・ミサイル?

危なッ!!

急いで後ろに向かった。

「人がいる前で何つーことしてくれ・・・ごぱァッ!!!」

地面にめり込んだミサイルとその爆発の衝撃で私の体は吹っ飛ばされた。

さらに顔と腹で地面に着地、そして勢い良くそのままドリフトして何かに頭をぶつける。

今日果たして何回頭ぶつかるんだろう。

なんか・・・最近頭ぶつけてばかりだな私。

「オイ、生きてるか?八雲。」

上を覗くと黒い装甲にミサイルランチャーを担いだ明日香の姿が見えた。

貴様私を撃ちやがったな。

「吹っ飛ばされてもピンピンしてるじゃねぇか。タフなんだな。遠慮せず撃っていいと見た。」

「にゃろう・・・後で覚えてやがれッ明日教科書を見たら謎の暗号とホラー映画情報が全ページいたずら書きされてるだろうぜクカカカカ。」

「地味な嫌がらせだなそれ。」

「つーかありゃ一体何だ?あの途轍もなくデカくてギョロ目の奴。」

「敵ってことにゃ間違いなさそうだ。」

「いや、そういうことじゃなくて・・・」

『八雲ちゃん、』

「先生?」

耳元から先生の声が聞こえた。

無線か?

深きものdeep onesの中心にいるのは・・・邪神だよ。』

「じゃ・・・邪神?」

『説明は後。対象を抹殺することだけを考えて。』

抹殺って・・・出来るのか?

あんな奴を。

「うだうだ考えてんじゃねぇよ。内容はシンプルじゃねぇか。要するにあのバケモン倒せばいいんだろ?」

明日香は武器を構えていた。

銃器に鈍器・・・装備品は物騒なものばかりだ。

「来るぜ。」

異形の軍勢の攻撃が始まったらしい。

「八雲、武器は戦闘機の中だ。せっかくの祭りだ、楽しもうぜ。」

「分かった分かった。」

戦闘機から出た時ふとボディの至る所にレバーが取りつけてあったのに気が付いていた。

レバーを引く。

私の勘は当たってたらしい。

全く凄い量だ。

・・・と、明日香はまたミサイルランチャーを構えていた。

また一発お見舞いする気なのか。

ふと、明日香の口元が目に映りこむ。

笑っているのか?

ったくどいつもこいつも・・・。

そう考えたのも束の間。

引き金はもう引かれたようだった。

銃口から螺旋を描きながら進む弾道。

各々が目標を捉え、異形たちの体躯を破壊していく。

その破片は宙に舞い、そしてそのままアスファルトに落下し、消滅した。

それでも邪神とやらはまだ傷一つ負っていない。

私は戦闘機から武器を引っ張る。

妙に巨大な赤色のショットガンとトマホークだった。

まずはトマホークを背負うことにした。

巨大なショットガンを前に向け、引き金を引いた。

ドスンッと、衝撃が伝わってくる。

銃口から飛び出した弾丸は、目にも止まらぬスピードで回転を続け、異形の体躯を貫こうとする。

果たして弾丸は邪神の体躯を貫くのか。

・・・・・否。

「なッ!!」

弾丸が届く瞬間、邪神から放たれる巨大な波動。

弾丸は正規の軌道をそれ、弾き飛ばされた。

波動の餌食は弾丸だけではなかった。

「ッ!!」

気づけば私達は吹っ飛ばされていた。

成程、これでミサイルの軌道を外して己の体を守ったのか。

私の体はいつの間にか、アスファルトに容赦なく叩きつけられていた。


     ×                            ×


「では、私はこれで失礼します。」

食事後とは思えぬほど白く綺麗な皿を残して、女性はレストランを立ち去ろうとした。

「オイ、待てよ。」

「まだ何か?」

アトラスは女性を引き留めた。

「まだアンタの名前、聞いたことがなかったからな。」

「名前ですか。そうですねぇ・・・アイリーンアドラーとでも名乗っておきましょうか。」

探偵ホームズを負かした女ってか?俺に対しての皮肉か?」

「また忠告に来ますよ。次は監視も兼ねまして・・・ね?」

そう言ってアイリーンと名乗った女性はレストランを後にした。

「嫌な奴だな全く。」

アトラスは呟いた。

アトラスは右手の窓を見る。

雲一つない青空。

当然ながら星は見えない。


少女はビルの屋上にいた。

黒いフードを被り、真下の光景を観察していた。

邪神に抗う人間。

装甲を纏った人間が邪神に向けて攻撃を放っている。

光景を観察しているものの、悔しいわけでもなく、楽しいわけでもなく、

感情も見せないまま、ただじっと観察をしていた。

その裏には、耐え難い黒い感情が渦巻いていた。

少女はただ壊したかった。

憎かった。苦しかった。

・・・・・殺意。

純然たる・・・・・殺意。

――――消えちゃえ・・・・・皆・・・死んじゃえ・・・。

虚ろな瞳に灯る炎。

ふつふつと・・・黒く、ゆっくりと燃え上がる・・・炎。

誰にも気づかれず、誰かを焼き尽くす為の・・・。

「・・・!」

少女は気づいた。

こちらに近づいてくる人影に。

その人物は装甲を解きながらこちらに近づいて来た。

憐れみの眼差しで、こちらを見つめながら。

神崎美沙夜だった。



少女には美沙夜の行動が理解出来なかった。

何故装甲を解いてこちらに近づいてくるのか。

何故そんな眼差しで自分を見るのか。

優しい・・・優しい眼差しで。

少女は身震いした。

気づかぬ間に後退りをしていた。

少女には怖かった。

理解出来なかった。

自分の否定してきた・・・あるいは否定されたものを全て拾い上げてきたような・・・。

少女は美沙夜に嫌悪を抱いた。

抱かざるを得なかった。

美沙夜は口を開く。

少女に向かって。

「すみません、少し話をしませんか?」

「ッ!!」

やめろ。

そんな目でこっちを見るな。

「・・・えて。」

ボソりと呟く。

誰にも聞こえない声で。

美沙夜は話しかける。

「あの・・・」

「来ないでッ!!今すぐ消えてッ!!私の目の前からッ

今すぐその目をやめてッ!!!」

少女の声に呼応するかのように突如として現れる深きものdeep ones

少女は逃げ出した。

虚ろな瞳に涙を浮かべながら。

誰も信じない。誰一人信じない。

消えて・・・・・皆消えて・・・。

深きものdeep onesは美沙夜に襲い掛かる。

美沙夜は再び装甲を纏った。

彼女を追うことはできなかった。

深きものdeep onesのせいだけじゃない。

フードから垣間見えた虚ろな瞳。

それが美沙夜の行動を躊躇わせたのだ。

美沙夜は悔しかった。

助けたかった。

少女は何処かに消えてしまった。

誰かに向けて・・・美沙夜に向けて、怨嗟の言葉を残し。



『―――ぐッ・・・――・・・』

ノイズをはさみながら、音声と共に戦闘状態の映像が管制室に流れる。

邪神の力を侮っていたわけではない。

だが、この力・・・邪神本来の力だけではない。

ナオは気付く。

「まさか・・・AIが独自に異本を改訂して・・・邪神を進化させている!?」

あり得るのだろうか。

AIが神を進化させるなど。

ナオの背中に悪寒が走る。

進化する邪神。

時間が経過すればするほど、形勢は不利に傾き続ける。

既に攻撃は通用していなかった。

適合者もダメージを受けている。

どうすれば・・・・・。

「ッ!!」

ナオは映像を凝視する。

・・・・・無力。

ナオは自分の無力を呪う。

攻撃も全て無力と化した。

『はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・はぁ・・・』

息が聞こえた。

ナオは手を握りしめた。

どうしようもない無力感が、管制室に渦巻いた。



管制室のドアが開いた。

「どうだ、まだ死んじゃいないか?」

「!?・・・ニトクリス?」

ニトクリスはナオの方に向かう。

「モルモットも無事のようだな。」

「なッ何をする気ですか。」

「実験だよ。」

ニトクリスの前にスクリーンが表示される。

「聞け八雲。今からブレスレットを起動させる。死にはしないから安心しろ。まぁ精々歯ぁ食いしばっとけ。」

『え?ちょっとッ、いきなり不安なんですけど!!何が始まるんですか一体!!!』

八雲の問いをスルーするニトクリス。

「精々暴れるこった。コードは・・・・・・SPARKだ。」

刹那、管制室の映像スクリーンが真っ赤に燃えた。

「なッ何が起きたんですかッ!?」

ナオの問いに笑みで答えるニトクリス。

そして言う。

「ラピッドエネルギーだよ。」


     ×                            ×



「ぐッ・・・・ぐぐぐぐッ・・・・ッ!!!!!」

熱い。

真っ赤なオーラのようなものが体中から溢れ出していた。

左腕にしていたブレスレットは短剣に変わり、何か・・・このオーラに似たエネルギーを放っている。

熱い・・・・熱いッ!!

それでも・・・頭は冴える。

私は叫んだ。

そして左腕にくっついていた短剣を右手に持ち、左足に全体重をかけ・・・飛び出す。

もはや何物にも縛られない気がした。

一直線に・・・只々一直線にッ!!

未だに残った深きものdeep onesを切り倒しながら、あの邪神に向けて、加速しながら突進する。

邪神の波動などもはや・・・この深紅のオーラの前では何の意味も持たない。

短剣により、邪神の体躯はいとも容易く破壊される。

口の見当たらない体から、声ともとれぬ絶叫がこだます。

私は短剣を手放し、背負っていたトマホークを両手で掴む。

刹那、何故だろう。

短剣がブーメランのように、異形の体躯を破壊しながら手元に戻ってくるようなイメージが浮かぶ。

イメージは現実となった。

オーラを纏った短剣は、体躯を切り裂きながら帰って来る。

私もトマホークを握りしめ、体躯を跡形もなく破壊する。

「トドメだァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」

切り裂き終わった瞬間、トマホークから手を放し、地面に不時着した。

邪神とやらは死体と成り果てた後、ゆっくりと姿を消していった。

オーラは徐々に、自分の体から失われていく。

力が抜けるような錯覚に見舞われた。

・・・いや、実際に抜けていた。

「・・・・・・。」

意識が朦朧とした。

装甲が重い。

日が沈み始める。

あぁ・・・疲れた。

「八雲、」

私を呼ぶ声がする。

明日香だった。

「・・・・帰るぞ。」

明日香の声が聞こえた。

肩を貸してもらった。

装甲が解かれ、お互い疲弊した体で、『舟』に帰還する。

何故だろう。

夕焼けが、悲しいぐらいに綺麗だった。

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