Act.1 来訪者

「へくちっ!!・・・寒ぅッ!!・・・・・」

夜。

冷たい風が私の体にぶち当たった。

「うぅぅ、寒い・・・寒いのはふところだけにしといてよぉ」

いや、ふところも勘弁して欲しいけど。

目やにが目についていたので手で拭った。

「つーかここどこだっけ、なんで寝てたんだっけ、てゆーか私さっきまで何してったk」

目をこすった。

「・・・・・え?・・・・・え?、え⁉」

見知らぬ風景だった。

思わず目を見開いた。

「・・・・・どこ?・・・・・ここ・・・・・」

目の前には銀色の噴水。

それを含め、私を取り囲むようにそびえたつ、ガラスのようにきれいな、

ビル、ビル、ビル。

そっと触れれば、崩れてしまいそうな外観をしていた。

そして・・・

『ニュースをお伝えします。昨夜未明・・・・』

飛行船だった。

飛行船がモニターをぶら下げながら空中を・・・ビルの間をゆっくりと飛んでいた。

・・・・・。

「・・・・・。」

ただいま思考停止中。

「・・・・・え?」

え?

「ゑ?」

ただいま思考復帰中。

「・・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ココ・・・・・ドコ?」

体からダラダラと・・・いやな汗が滝のように噴き出した。

私はビルの間を行きかう人混みを見つめていた。

まるで小さい頃に戻ったみたいだ。

冷たい雫が頬を伝う。

あ、涙だコレ。

つまり、どーゆーことですかコレ。

あれですか、異世界転移ですか。

ていうか異世界転移って何?美味しいのそれ?

ヤバい、腹が減ってきた。

何故だろう、今無性にラーメンが食べたい。

駄目だ。

体から・・・急激にSAN値が減っていくのを感じた。

ラーメン・・・ラーメン・・・。

ラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメン

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」

私は激しくのたうち回った。

人の目など、もはやどうだっていい。

「ラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあメぇぇぇぇぇえぇぇぇぇえぇぇぇぇンッ!!」

発狂した。

異世界転移プラス空腹で発狂した。

ラノベを書く際には「空腹と発狂で始まる異世界転移」とタイトルを付けよう。

内容はこうだ。


私は異世界転移した。

でも空腹と異世界転移に対するショックで発狂して私は死んだ。

                           了

三行で終わった。

そしてすぐさまエンドロールが流れる。


               原作

               私

               

               監督

               私


               脚本

               私


               出演

               私:WATASHI

 モブ:その辺にいた、私を見て「うわぁ、なにあれ。」「お母さん、あのおねえちゃん苦しそうにのたうち回ってるよ。」「こら、見ちゃいけません。」「なにあれ、発狂してるじゃん、マジ映えるんですけどー」とかほざいてやがったその辺の人たち(友情出演 ギャラなんか存在するかばーか)


           制作:異世界転移発狂委員会


映画が終わったとたん観客席からは、なんだこの映画は、こんな映画を制作した神経を逆に尊敬するわ。こんなクソℤ級映画見たのは初めてだわ、逆に感動したわ。

と、話題が話題を呼び年間興行収入第一位を突破し、ア〇デミー賞など様々な映画の賞を総なめし、伝説のクソ映画として映画業界に語り継がれていくことだろう。

そしてそして私は自家用ジェットを持つほど大金持ちになって素敵な旦那さんと結婚するんだ。フハハハハハ、ハーハッハッハ  ←現在発狂中のため変な幻覚見てる。



・・・・・。

そんな夢も空しく、のたうち回ってる最中に先ほど座っていたでだろう鋼鉄のベンチに頭をぶつけ私の意識は再び暗闇へと落ちていった。

あぁ、神よ。

馬鹿で愚かな私を許したまえ。 ←自覚あり


        ×                 ×


街が燃えている。

ビルの屋上。

青年はワイングラスを片手に目の前の炎を眺めていた。

「まったく酔狂な奴だ。」

青年の後ろから聞こえる女の声。

「何を肴にするつもりかな?」

「いや、今日の天気予報は晴れって聞いたんだよ。

こうして星を見ながら酒を飲むのも悪くないと思ったのに、

まさか早速こんな形で台無しになるたぁね・・・。」

青年は苦笑しながら答えた。

女はため息をつく。

「それで?この場に似合う口説き文句でも用意してきたのか?

生憎、安酒とくだらない風情のない告白には興味はなくてな。」

「おい、ちょっと待てよ。おまえが好きだ!!」

「失格。」

「お、おいッ。ちょまてよ」

「貴様にキムタクは二万年早い。」

「ッ・・・・・。・・・で、どこ行く気だよ。まさかとは思うがあの奥なんて言わないよな?」

青年の親指が指す方向は炎の渦。

熱中症になるぞ、と・・・青年は冗談のつもりで言ったらしい。

全く風情のない。

「そのまさかだ。いや、なに。少し面白そうな香りがしてきてね。

暇つぶしにはなりそうだ。」

あぁ、それと・・・と女は続ける。

「私を釣る気なら、もっと高いワインを持ってくるといい。

安酒と安い言葉で釣られるほど、安い女と思われたくなくてな。」

女は笑顔を残し、その場を去った。

屋上には青年だけが残されている。

「・・・・・このワインも結構高かったんだけど・・・。

ったく・・・これより高いワインってどんなだよ。」

最悪だ・・・。

炎の渦を前にため息をついた。


         ×                 ×



「大丈夫ですか?あのッ・・・ラーメン・・・買ってきましたよ。」

ふと、声がした気がして、目を覚ました。

体を起こすと、さっきまでの場所がかなりの変貌を遂げていた。

何が起こった。

爆発か何かが起こったのだろう。

そしてさっきの天使みたいな声はなんだ。

多分親切な人がラーメンを持ってきてくれたのだろうあんなにラーメンラーメン叫んでたし。

実際その通りだった。

私とそこまで年が変わらないぐらいの女の子。

彼女の手には、カップラーメンと割り箸が握られていた。

「あの、私・・・ラーメンあんまりよく分からなかったので・・・カップラーメンしか買えませんでしたけど・・・良かったら、食べてください。」

ブワッ ぶわわわッ

「えっ!?」

涙腺崩壊。

「・・・ごめんなさい。」

目の前の女の子が女神にしか見えなかった。

なんかもう申し訳なかった。

女神のくださったラーメンを恐る恐る口に入れた。

美味しい・・・・・・。

こんなに涙を流しながら、こんなに美味しかったラーメンは無かった。

「あの・・・もし何か困ったことがあったら、何でも言ってください。

何でも相談に乗りますから。」

やっぱり女神だったこの人!!

涙が滝のように流れた。

ごめんなさい。

それしか言葉にでない。

馬鹿な私を許してくれて本当にありがとう。

こんなに涙を流した日はなかった。



刹那のことだった。

爆風だった。

私たちは爆風によって、数メートルほど吹き飛ばされた。

幸い二人とも目立った傷はなかった。

一体・・・何が!?

「な・・・・・」

炎が・・・引いていく。

跡形もなく炎が引いていく。

ただ燃え尽きた残骸を残して、炎だけが引いていく。

その次に瞳に飛び込んできたものに、私は目を疑った。

「・・・・・!?」

なんだ・・・・・・あれは・・・・・・!?

異形。

人間のような体つきで、しかし魚のような鱗を持ち、獣のような牙を持ち、

人間とは似つかない黄色の眼球を持っていた。

その異形の大群が、こちらにゆっくりと近づいてくる。

この世のものとは思えなかった。

悪夢としか言いようがなかった。

体が・・・・・動かない。

恐怖で、体が動かない。

何なんだ。

あれはいったい何なんだッ!?

「・・・・・。」

「な・・・・・」

女の子・・・あのラーメンをくれた女の子が・・・異形の大群と対峙していた。

何をしているんだ。

いったい何を・・・

「少し下がっててください。大丈夫、すぐ済みますから。」

冷静な声のトーンだった。

彼女は左手首に巻かれた腕時計のスイッチを押していた。

いや、あれは腕時計・・・なのか?

その瞬間だった。

巻かれた腕時計は徐々に形を失い、

彼女の衣服と共に再構成を始めた。

衣服は機甲へと変貌を遂げる。

まるでSF映画。

右手には銃、左手には三日月型のナイフのようなものが握られていた。

・・・・・戦闘の合図は異形たちの咆哮。

彼女はすぐさま地を蹴った。

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁアアアアアアアアアアアアアッ!!」

宙に舞う彼女の体。

その瞬間、彼女はすぐさま銃のトリガーを引いていた。

乱射。

異形に降り注ぐ弾丸の雨。

鉄鉛は異形の体躯をいとも容易く貫いていく。

それと同時に消滅していく異形たち。

着地。

だが・・・・・まだだ。

まだ数が多い。

着地した瞬間、銃とナイフを持ち替える彼女。

右手親指で押されるナイフのスイッチ。

刃の色が徐々に変わっていく。

何か・・・エネルギーが集まっているのか。

叫ぶ。

「バルザイッカッタァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

彼女はナイフを飛ばした。

飛ばされたナイフの刃はエネルギー態と化し、光輪状となり、縦横無尽に異形の体躯を切り裂いていく。

かなりの数を減らしていった。

だが・・・・・

それでも鳴り止まない咆哮。

彼女に襲い掛かる異形。

先ほどのナイフをこちらに手繰り寄せ、銃で撃ち殺し、ナイフで切り裂く。

それをただただ繰り返した。

それでも・・・・・・一向に数は減らない。

減らない・・・・・・。



神崎かんざき美沙夜みさや、年齢16歳。機甲タイプギア・アストロワン適合者。」

「!?」

突然女の声が聞こえた。

「いや、怖がらなくていい。私はニトクリス、あの娘の味方さ。」

ニトクリスと名乗った女はこちらを見る。

まるで観察対象に好奇をみいだすような目で。

「見て分かる通り、美沙夜は苦戦を強いられている。それもあの数だ。

深きものdeep onesモドキどもに貪り食われるのがオチか・・・。」

「な・・・・・!?」

私は美沙夜の方を向いた。

息づかいが先ほどより更に荒くなっている。

「あんたッ・・・・・!!」

「ふ・・・案ずるな、まだ勝算はある。

そう例えば、だ。目の前に一人の少女がいたとする。

それが偶然にもアストロワンの適合者だったとする。

どうだ?貴様はアストロワンに呼ばれてここに来たんじゃないのか?」

アストロワンに・・・・・呼ばれる?

「さぁ、どうする?このまま奴らの餌食になるか、美沙夜のように機甲を纏って戦うか。答えを聞かせてもらおうか。」

・・・・・。

「そんなの、決まってますよ。」

答えなど、一択しか存在しない。

「戦いますよ。私は生きたい。あの人の為に、私自身の為にッ!!」

「悪魔と踊る準備は出来ていると・・・やはり、そうでなくてはな。」

ニトクリスは何かを取り出した。

「ならば踊れ、アストロワンの運命さだめの中でッ!!!」

光だ。

あの時の光。

ブラウン管が発していた光。

何故さっきまで思い出さなかったんだ。

夢・・・だったのか?

いや、今はそんなことはいい。

覚悟を決めるんだ。戦う覚悟を。

戦え、己の運命を手にッ!!




右手が握っていたのは巨大な斧トマホークだった。

私はそれを右肩に担ぐように構える。

雷刀らいとうの構えっていうのかな?

敵さんの数なんて、いくら数えても埒が明かないや。

戦おう。

動け、走れッ!!

「・・・ッ!!」

地を・・・・・・蹴るッ!!

重い。

だが気にするものか。

私は異形の元へ突っ込んだ。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおッ!!」

体全体が咆哮を上げる。

縦横無尽に、私は異形どもを切り裂いた。

そこにはもう恐怖はない。

ただ斬ることだけを考えた。

ふと、目の中に美沙夜の姿が写る。

疲れ切った様子だった。

それでもその瞳は驚愕している。

後だ。

もう奴らが見えなくなるまで、斬り続けるんだ。

力の限り・・・・・。

「はぁッ・・・・・はぁッ・・・・はぁッ・・・・。」

もう、敵の姿は見えなかった。

私の姿は返り血でまみれている。

私は空を見上げた。

とても綺麗な満月だった。

疲れた。

疲れ切っていた。

眠ろう、少しだけ。

私の意識はまた、闇の中に溶けていった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る