灼星のアストロワン

ナナノマエ・ミツル

Season . 1 ワンダー・ランド

Prolorgue:幻夢、狙われたセカイ

夕焼けだった。

廊下の窓から夕焼けが見える。

沈んでいく太陽を脇に、私は障子の前に立っていた。

ここはどうやら、アパートらしかった。

先ほどの窓から何やら、大きな煙突の伸びた建物が見えた。

煙突の中からモクモクと空を漂うスモッグ。

まるで完成した絵画に、その場に似つかない

真っ黒な墨汁を誤ってこぼしたような醜悪さを感じる。

不気味だ。

あのスモッグに、この町が覆われたとしたら・・・

一体、どうなるのだろう。

「どうぞ、お入りになってください。」

ふと声がして、私は我に返った。

障子の奥から女の子の声が聞こえた。

そうだ、早く入らないと。

障子をあけ、私は奥の部屋に入った。

その瞬間、不思議な感覚に襲われた。

「・・・・・・。」

にこりと、女の子は笑った。

この部屋にも、左側に窓があった。

先ほどの窓より大きく、広く外の風景を見渡す事ができた。

「どうぞ、おかけになってください。」

部屋の中心にある卓袱台ちゃぶだいごしに女の子は言った。

床はたたみになっている。

古い年月を経て、随分と年季の入った畳だった。

私は彼女の勧める通り畳に腰かけた。

夕焼け。

私たちは夕焼けに照らされていた。

室内はブラウン管の発するノイズで満ちていた。

窓の近くに置かれたブラウン管。

画面の中は当然ながら砂嵐だった。

「気になりますか?それ。」

女の子が笑顔でそう聞いてきた。

「う、うん・・・。」

「もうすぐ見たい番組が始まるんですよ。

だからテレビをつけてこうやって待ってるんです。

あ、そうだ。待ってる間、少しお話ししませんか?」

何だろう。

「最近あまり夢を見ないんですよ。この前まではよく見てたのに。

そういえば、モノクロの夢って見たことあります?」

「モノクロの夢?見たことないケド・・・そんなのあるの?」

「私も見たことないですけど・・・モノクロのテレビをよく見てた人はモノクロの夢を見ることがあるそうですよ。私もカラーテレビしか見たことないので、話を聞くまで知りませんでした。

夢って不思議ですよね。何か、神秘的なものを感じます。」

「・・・。」

「あ、テレビの話の後だと神秘的には感じませんか・・・」

彼女は少し顔を赤らめた。

・・・・・不思議だった。

室内というか・・・この空間そのものが。

ノイズのせいだけじゃない。

私の居場所じゃない気がした。

夕焼けは私たちを照らしていた。

不思議だった。

目の前の彼女が。

瞳をじっと見ていると、その深淵に吸い込まれそうで。

何故だろう。理解できない恐怖を感じるような。

夕焼けは私たちを照らしていた。

不思議だった。

一瞬目の前の全てがモノクロに見えた気がした。

それでも夕焼けは私たちを照らしていた。

ふと思う。

私はどうして、どうやってここに来たのだろう。

そして、あなたは・・・誰?

「あっ」

突如、ブラウン管からのノイズが、少し乱れ始めた。

「もうすぐ、始まりますよ‼」

彼女は嬉しそうにそう言った。

ブラウン管の砂嵐が、少しずつ晴れていく。

ノイズは管楽器の音に代わり、画面には赤や緑の色のついたタイトルバックが現れた。

そして現れる、並んだ白い文字。

「ッ⁉」

突如として、ブラウン管が・・・強い光を放ち始めた。

「もう時間のようですね。」

周りが真っ白な光で見えなくなる中、彼女は言う。

「おはようございます。そして行ってらっしゃい、・・・・・さん。」

なんだ?なんて言ったんだ?

そして私は、何を見たんだ?

刹那、プツンッ・・・とテレビの電源が切れるかのように、あたりは暗闇に包まれ、

私の意識は遠のいていった。

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