第3話 初めての彼女

 俺は持ち合わせていなかったこの現状に困惑していた。友達?先輩?分からない。どうするべきか。ここで記憶喪失だということを打ち明けるべきか。でも、こんなに涙を流すまで俺の事を心配してくれていた彼女に真実を打ち明けてしまったら、きっと彼女は悲しむ。ならば選択肢は一つだ。この場を乗り切るしかない!


「あ、あの……」


 パチンッ!

 俺が口を開けた途端、俺を弾き飛ばす勢いで頬に一発のビンタが飛んできた。


「え。」

「ほんとバカじゃないの!?心配かけないってあれほど言ったじゃん!」


 彼女は先程以上に涙を流してそう訴えた。俺がこんなくさい言葉を吐いていたことには少し驚きと驚きで今にも死にたい気分なのだが。ダメですね。助けていただいたこの命、大切にしなければ。俺が言えることはただ一言だった。


「ごめんなさい」


 ここはこう言うしかなった。すると周りの生徒が次々に教室から捌けていく。


「えっ、ちょちょっと!ひなだぁ!?あやどぉ!?」

「許さない……」

「えっ……逃がさない!?」

「ゆ・る・さ・な・い!」

「あぁーごめん!」


 めちゃめちゃ痛かった。っていうか俺、初対面の人にビンタされたのか!?しかし、彼女は未だに涙を流し続けている。もしかして実は俺の事嫌いなんじゃないのか!?皆が途中で捌けて行ったのも俺がこれから一対一で絞めらるから!?こんなに恨まれるまで過去の俺はどんな酷いことをしたんだ。そう考えたら震えが止まらなくなった。


「あ、あの……」


 またまた俺が話出そうとした途端彼女はスっと一歩前に出て俺に優しく抱きついた。


「心配してた。寂しかった。」

「……」

「何か言ってよ」

「ごめん」

「それしか言わないじゃんか。もっと他にあるでしょ?」

「えーと」

「言わないなら私が言う。夢莉君、ずっと好きだよ」


 鼻を赤くさせた彼女は泣きっ面で満面の笑みを見せながら言った。すごく可愛い。きっと並の男子ならコロッと一撃で射止めらるような悪魔の笑みとでも言おうか。とにかく可愛いのだ。


「好き?」

「再確認とかやめてよ。もう私は言わないから」


 好きというのはどうゆう事だろうか。俺がこの子と付き合っていたという事だろうか。なのだとしたら不思議だ。


「恋」が分からない。


 恋という言葉自体は知っている。しかし、俺が過去この子に恋をした理由が分からない。無論、好きという言葉の意味もよく分からない。

 恋が分からないと言っても伝わらない人の方が多いと思う。世間一般的に、かつ一番馴染みのあるもので例えるとするならば、きっと宇宙人や幽霊のようなものだと思う。はっきりとしたような確実性は無いものの、言葉やあやふやなイメージ像は何となく分かる。少し違うがこういった感覚に近い。


 これだけ眠りに眠り続け、過去の記憶も多少だが無くなっている。さらに加えて彼女に関しての記憶や情報すらも何故かきれいさっぱり消えている。

 彼女のことを好きでもない男に今後も付き合わされていく彼女の時間も無駄だろうし、この状況で付き合い続けるというのはお互いに良いものではないだろう。彼女には申し訳ないがタイミングを見計らった上で振らせてもらおう。


「言ってくれないの?」

「え、何を?」

「もーいーよ。いくら寝てもその鈍さは治らないんだね」

「なんかごめん」

「ごめんごめん言い過ぎ!私といる時はごめんを禁止します!」

「何だよそれ」


 こう俺を見てる限りコミュニケーション障がいにしか見えないが、初対面であるということを理解して見てほしい。


「でも一つだけ、私から謝らせて欲しい事があって。その、あの時約束守れなくて……本当にごめんなさい!」

「えっ、あー全然大丈夫だよ!気にしてない気にしてない!」


 あー!俺のバカぁー!今の一言で全て取り返しのつかないことになってしまった。

『あ、うん』ぐらいに無難に受け流しておけば良かったものを何で余計な嘘をついてしまったんだろうか。こんな事になるんだったら最初から正直に打ち明けていた方が絶対に良かった。

 付き合う、付き合わないの問題はこれから解決していくにしろ、俺が彼女のことを認識している事になってしまったのは非常に痛い。今後この状況をどうしていくのかを考えるのも重要だが……取り敢えず今の状況が一番まずい!

 誰もいない教室、初対面の彼女と二人きり。


「本当に?」

「ほ、本当……大丈夫だよ」

「本当にごめんなさい。今度はちゃんと約束守るから!だから、今日あそこに来てくれない?今日あの時の約束を果たしたいから。いい?」

「いやー、今日はたまたま用事があってー」

「嘘ついてるでしょ」

「な、なんで嘘なんてつく理由があるんだよ」

「嘘ついてるよね!」

「うっ。……はぁー」

「残念でした!なんなら私夢莉君よりも夢莉君の事分かってると思う」


 自慢気に語る彼女に一つ言いわせていただきたいことがあるのですが。なぜさっき俺がついた嘘は指摘しなかったんだ!なんなら、一つ前の嘘を指摘して欲しかったまである。よりややこしい事になってしまった。


 ていうか『あそこ』ってどこだよ!


「じゃあ待ってるね」

「いや、また今度に……」

「まさか断る気?」

「いえ、行かせていただきます」

「うん!」

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拝啓、キミといつかの恋を。 @minazu

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