第2話 キミはだれ?

「母さん!倒れる前俺ってどんなやつだった!?」

「は?そんなの普通にガキしてたよ。普通に学校に通って」

「そうじゃなくて俺の性格とか、友人関係とかの話!」


 俺がここまで必死になるのには理由がある。明日から半年ぶりの学校復帰です!

 俺には過去の記憶がない。例えば仮に仮のお話。

 昔むかしあるところに桜葉さくらば 夢莉ゆうり君の友人を営んでくれていたA君がいました。『大丈夫だった!?』と心配気に話しかけるA君。その場はノリで『ううん、全然大丈夫だったよ』と返す夢莉君。それからというもの『なんかよそよそしくない?もしかして俺の事忘れちゃた?』と半笑いで問いかけるA君。『えー忘れるわけないじゃん!あれでしょ?あれ。うーんと……』干からびる夢莉君。めでたしめでたし。

 って全くもってめでたくない!しかも、主人公A君だし!おれ悪役みたくなっちゃってるしぃ、営まれてるのに退治されちゃってるしぃ!

 でもそんなの考えすぎか!どこか吹っ切れた俺はソファーに寝転がり……気付いたら朝だった……。


「かぁーさぁーん!寝ちゃったじゃん!学校何時から!?」

「全部知らん!」


 久しぶりの登校、不安が募ります。

 俺は鞄に教科書という教科書を無理やりねじ込み、今となっては懐かしくも感じてしまう制服を身に付け、味噌汁、ご飯を急いで胃に流し込む。扉を開けると少し肌寒く、草木も赤、黄、緑と様々な色で彩られている。

 そしてとうとう、教室の扉の前まで来てしまった訳だが、緊張と不安で思うように体が動かない。


「あれ、夢莉?」

「げっ……」

「やっぱ夢莉じゃん!お前大丈夫だったか!?」


 やっ、やばい!このままだと昨日の昔話道理退治される始末に!どうにかして回避を……


「ひ、人違いへはないでひょうか!ぼ、僕は……!」


 あれ?分かる。こいつは俺の幼馴染、向井むかい 日向ひなただ。多分。


「お前ヒナか?」

「んだよ、気持ちわりな。でも良かったわ!元気そうだな!」

「そ、そっか!久しぶりだな!」


 分からないものだと思っていた。あの医者、記憶喪失に『まあ』とか言うから藪医者かと思っていたが、本当に大したことないらしい。昨日まで色々心配していた自分がバカバカしい。


「日向、オッパよー!えっ、ユウ君!?」

「久しぶりに聞いたそれ、オッパよっす!カエも元気そうだな」

「それは私が言うセリフでしょ!」


 こいつも俺の幼馴染、成瀬なるせ かえで。元々楓と日向が幼馴染だった所に俺が途中参加、じゃないな。正しくは参加させられた、だ。まだ幼稚園児の時あまりにも静かだった俺に二人が声をかけてくれたんだっけ。

 ……あれ!?なんか有り得ないほど昔のことまで覚えてんだけど!もしかして、記憶喪失が一周まわって記憶活性化されちゃってる!?とあたふたしている俺だが、それより何よりやっぱり学校は楽しい。こんな学校生活を半年も無駄にしていた思うと少し切なくなった。


「ユウ君を早くみんなに合わせてあげたいよ!今日は退院パーティだね!」

「だな!パーッと楽しもーぜ!」

「もーぜぇー!」


 二人が盛り上がる中ヘッドホンを付けた一人の男子生徒がスタスタと足音を立てながらこちらに向かってくる。


「もーぜじゃないだろ。退院後にお前らみたいな頭の悪いノリに付き合わされるユウの身にもなってみろ。たまったもんじゃないぞ」

彩斗あやとー、ヤキモチ妬いてんの?安心しろお前も誘ってやる」

「ワーイ。ウレシーナー」

「もうちょいこう嬉しそうに言えないのか」

「そうだな、嬉しくないからな。ごめんな」

「いいし!なぁー夢莉!」


 自然と笑いが込み上げてきた。実にバカげた会話だが、こんな話ができるのも今のうちだけ。青春を楽しむ者。高校生の嗜みだ。


「おはよー。え、桜葉君?桜葉君!?桜葉君だぁー!良かったよぉー!」

「大袈裟だな、大したことないよ」

「大袈裟じゃないよ!桜葉君のせいでフウちゃんずっと元気なかったんだから!」


 意外と皆俺の事を心配してくれていたんだな。少し照れてしまう。

 井上いのうえ 湊音みなと。ミナは高校からの浅い付き合いで俺もまだよく知らない事の方が多いが、大人しくて、時におっちょこちょいで、癒し系の存在であるということだけは分かっている。

 紹介し忘れていたが、さっきのヘッドホンをつけていた彼、神埼かんざき 彩斗あやと。アヤはいたって真面目で誠実だが、メンバーの中で一番いいツッコミをしてくれる。それがまた面白いのだ。あとはー、待てよ。フウ……ちゃん?


「あっ、フウちゃんきてきて!」

「朝からテンション高いなー、どうしたの?え……」


 俺の視界に入ったその彼女は目を丸くしてしばらく固まっていた。すると彼女の大きな瞳から一粒、二粒と涙が溢れこぼれ落ちる。


「ヒューヒュー!よっ!感動の再開っ!」

「ちょっとダメだよ!」


 日向と湊音が俺たちの感動の再会を面白がっている。


「お前ら面白がってやるなよ。こういうのは静かに楽しむものだろ?」

「私は面白がってないし!しかも、神埼君言ってること矛盾してるよ!」

「おーよく分かったなー。偉いぞーよしよし」

「もぉー!私は真剣に!」

「お前らが一番害悪じゃないか?」

「あっ……」


 日向に言いくるめられた湊音は赤面しながら反省するも、反省すべき当本人(二名様)はヘラヘラと湊音を嘲笑っている。外野でそんなことが起こっているのも知らず、俺はただ唖然とし彼女を前に立ち尽くしていた。

 日向、楓、彩斗、湊音、そして…。


 ダメだ分からない。彼女は一体誰なんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る