拝啓、キミといつかの恋を。
@minazu
第1話 恋ってなに?
人類かつて未だ解き明かされていない謎と問われればなんと答えるだろうか。
宇宙人?はたまた幽霊?人間が生まれてくることでさえも言わせてみれば謎の一つであるかのように思えてしまう。
では「恋」とは何だろうか。
なぜ人は恋をし、愛を育もうとするのだろうか。
人はなぜ等しく平等な人間に恋をするのだろうか。
恋は生きていく上で必要な事の一つなのだろうか。
「ピ、ピ、ピ」
目を覚ますと、そこには真っ白な天井、真っ白な花瓶に真っ白なユリの花が生けられている。ピ、ピ、ピ、とまるで心拍に合わせてリズムを刻んでいるかのような機械音が頭上で鳴り響く。視線を少し横に逸らすと、一人の女性と女の子がこちらをじっと見つめている。
「お兄ちゃん!?見える!?聞こえる!?」
そう言うと俺の体を豪快に揺らす。知っている。この少女は俺の妹だ。そしてハンカチで涙を拭っているあの女性は俺の母さん。二人の状況からして恐らく俺は寝たきりのまま何日間も病院のベッドで眠っていたのだろう。
「良かった……!」
俺には分からなかった。何が良かったのか。なぜ母さんが泣いているのか。思い出そうとすれば思い出そうとするほど頭に激痛が走り記憶が上手く引き出せない。
結局その後も思い出すことはできず、一日が終わった。
あれから一週間がたち痩せ細った体も無事回復し、俺は退院した。
久しぶりに家に戻ると部屋の内装はがらりと変わっていた。
「母さん、俺ってどんくらい眠ってたの?」
そう軽く聞くと、安堵したかのような表情を浮かべながら溜息を着くかのように答えた。
「半年。ほんとあんたは昔からよく眠る子だったけど、半年も起きないし。もうこのまま起きないんじゃないかと思って気が気じゃなかったわ」
「寝る子は育つってね」
「バカは育てんでよろしい」
俺は少し真剣な面持ちに表情を変え母さんに質問を投げかける。
「俺ってなんで入院してたんだっけ?どうしても思い出せなくて」
「ほらあのー、あんた山頂にある神社にあの日行ったでしょ?それも覚えてないの?あんたが見つかったのが山の麓だったから、階段でも踏み違えて階段から落ちたんじゃないの?知らんけど」
興味無さすぎではないでしょうか。一様、あなたの息子やってるんですけれども。
そう、俺の家の近くにはひとつの大きな山がある。山の山頂には古びた神社があるのだが、たどり着くには少し酷な直線上に続く階段を登らなければならないのだ。ここらではこの階段のことを「恋の三段」と呼んでいる。神社に祀られているのが恋愛の神様であるという事と、山頂まで続く三四三段の内三段のみ不思議な言い伝えがあり、何段目かは不明だがその段に立って告白すると必ず恋が叶うといわれているとかなんとか。そんなこんなで「恋の三段」と名付けられたらしい。どこにでもこういった迷信はあるもんだな。
そうだ、思い出した!
神社になんだったかな?とりあえず何かをお願いしに行ったんだけ?そうだ!帰り、階段を降りようと一段目を踏み入るのと同時に倒れたんだ。しかし、発見されたのは山の麓。驚いた。要するに俺は三四三段の階段を見事転げ落ちた末に、今こうして生きているわけか。少し自分が怖くなってしまった。
「大脳皮質に少し異常が見られますが、普通に生活している分には問題はないかと」
「だ、大脳……ちしつ……。は、はい分かりました!」
大脳皮質。バカな俺には到底分かりえない単語であるが、大脳皮質とはどうやら記憶をしておく場所らしい。記憶といっても、古い記憶をファイリングしておくことのできる画期的な部位。
「まあ、簡単に言うと軽い記憶喪失ですね」
まあって、簡単に言ってくれたもんだ。抜け落ちて困るものはあいにく持ち合わせていないから、別にいいのだが。どうせ過去の記憶なんざくだらないものばかりだ。
「うーん他には、体にも大した傷はないですし、臓器にも異常はないので、特に通院する必要は無いですね」
「わ、分かりました。ありがとうございました……」
と診察を終えた訳だが、正直記憶喪失と診断されたあたりから話が全く頭に入ってなかったというのが現状。
それはさておき、記憶喪失とあらば全て合点がいく。なぜあの日俺は神社に行ったのか、なぜ過去の記憶を思い出そうとすると激しい頭痛に苛まれるのか。
何かすごく大事なものを忘れてしまった気はするが……。
俺は考えるのをやめた。
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