チートその1

エレベーターに乗った時の様な浮遊感が身体を襲う。だが、それも一瞬のことだ。再びバチッという音と共に重力が元にもどる。

 薄く目を開けると、目の前・・・と言うより周囲が緑で覆われた場所に私は居るらしい

(またベタな)と思いつつ立ち上がる。


「森か・・・」


 とりあえず、所持品のチェックをする事にした。なぜなら、背に明らかに先ほどまではなかった重みがあるのだ。


「財布は・・・ある。中身は知らない貨幣に変わってるけど。スマホもある《ピロン♪》は?何で通知?」


 もしやスマホのある文明に来たのかと疑問に思いながら開くと。


moon

『無事にとどいた?大丈夫なら返信してね』


というメッセージと可愛らしいスタンプが。知る限りこんなしゃべり方をする人物はいないため無視しようと思う。


「あ、ヘッドフォン首に掛けたままだ。大事なヤツだし良かった~。細かいことは全部後回しにして・・・」


いよいよ、背中にあるものを確認ピロン♪・・・確に《ピロン♪》・・・・・・かk《ピロン♪》・・・・・・オイ。

その後もピロン♪ピロン♪と連続で届くので諦めてメールを開く。


moon

『おーい!無視しないでよー!』

『届いてるよね~?』

『僕は見てるから知ってるんだぞ!』

『そろそろ泣いちゃうぞ?』

『僕が泣いたら姉上たちが容赦しないぞ!』


と、少々・・・いや、かなり怖い内容が届いた。

 そして、気付く。あれ?ケータイ圏外じゃね?てことは・・・。確信のない推測だが、試しに、返してみる事にした。


Unknown

『どなたですか?』


一瞬の間も置かずに返信が。


moon

『えー?ひどーい!さっき会ったばっかじゃん!少し話し方違うからってそれは無いじゃん?(つд;*)』


今度は絵文字付きである。って?はい?さっき会った?話し方が違う?てことは本当に?


Unknown

『月詠命?』

moon

『そーだよ、もう!やっと分かった~?』


 どうやら、推測は当たった様である。

てか、話し方違うって少しどころじゃない。


Unknown

『で、何の用?』

moon

『ホント、ひどいなー!』

『すみません、手早く済ませるのでスマホ壊そうとしないでください。いや、本当に。』


 こっちを見てるというのは本当らしい。


Unknown

『なら、早くして』

moon

『はい!』


 何処からかしくしくと聞こえてきたきっと気のせいだろう。


moon

『実はですね、私と意思疎通するためにスマホをいくらか改造しました』

『待って!待ってください!壊さないで!』

『ありがとうございます。まず、改造の内容ですが。この通り僕とのチャットを可能にしました。』

『次にこの世界についての検索機能です。

言語等はこちらでどうにかできますが、知識を植え付けるのは無理なのです。』

『はい、おっしゃる通りです。その方が便利でしょう?───────これで以上です』


 月詠命の説明を聞き、スマホが超素敵アイテムになっていることを理解した。

さて、そろそろ最大の疑問を聞こう・・・。


Unknown

『最初の方の女の子みたいなしゃべり方何なの?』

moon

『え?そっちですか?能力とかスキルじゃなくて?僕のしゃべり方のほう?』

Unknown

『うん。だってしゃべり方コロコロ変わるし、女子みたいだし。』

moon

『・・・本当にマイペースですね』

『言ってませんでしたね!』

『僕、本当は女子なんです!』

『あれ?おーい!』


・・・は?はぁぁぁ!!!???


Unknown

『じゃあ、あの姿は!?』

moon

『あー、あれは仮の姿でーす!』

『僕の本当の姿見たら絶対に君は驚くから』

『だから、アレにしたんだ。君がそっちの世界に馴れたら本当の姿で会いに行くよ』

『じゃあ、今日はこの辺でー!』


というのを最後に本当に既読しなくなった。

いやー、もう何というかね?


Unknown

『ふざけんな!』


これに尽きるのである。

ぜぇはぁと肩で息をしつつ、改めてこの会話の前に確認しようとしていたものを見る。


「刀・・・。しかも黒。」


刀身が黒というのはとても珍しい。私は黒が好きなので嬉しいのだが。


「剣じゃなくて刀なのは私でも持てるようにってこと?」


 刀身を鞘から完全に抜く、中段に構え近くの木へ斜めに振り下ろす。イメージ的には袈裟斬りだ。


      ズパァァン!!!


 可笑しい。完全に可笑しい。軽く振ったのに何で奥の木まで斬れてるの?

とりあえず、刀を鞘に納めて一言。


「刀って木を伐るのに特化してたっけ?しかも、軽く振っただけでコレってどういうことなのさ・・・」



 無意識に見えるハズもない遠くを見つめながら私はため息を洩らしたのだった。






















*誰得なオマケ


 呆然としながら心持ち遠く─周囲は木で囲まれている─を見つめていると・・・。


      スウゥゥゥウッ!


目の前にアニメでよくあるホログラムのマップの様なものが出てきた。


「・・・・・・・・」


この後、超検索&月詠命にクレームを送った。

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