少女に幸せは訪れるか

夜空

リスタート

転生

 普通に生きたいだけだった。

暖かい家に柔らかい布団。仲の良い父母。

中3の私に立ちはだかる受験の為に勉強をし、それを暖かく見守り。応援する。

友人を自宅に招き、一緒に遊ぶ。

虐待なんてもちろん無いし、頑張った事に対して当たり前のように褒めてくれる環境。

 私は普通に憧れていた。


 だが、現実はどうだ?

冷たい家に硬い布団。父母の仲は冷めきり。

中3の私は惰性で塾に通い。父や兄弟は応援してくれるが、母は何もしてくれないし、応援なんてもっての他だ。

生まれてこの方友人を家に招き入れたことなど無いし、虐待は当たり前。暴力は止んだが暴言は続いている。

お小遣いは親からではなく兄達から。

努力しても分かって貰えず、努力することに意味を見出だせなくなった無様な状況。

 結論、私は普通とは程遠かった。

 それは死に際も同じらしい。


 ___________________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 


 目当ての漫画を買った私は1人の時には珍しく笑顔だった。今になれば、不幸と幸福は釣り合うとは良く言った物だと思う。

前日にガチャで推しの最高レアリティを久しぶりに当て、兄からはそれに類するグッズといつもより少々多いお小遣いを貰い。

そして、今日は体調がすこぶる良かった。

そんなささやかな幸福に対し、明らかに釣り合っていない不幸が訪れた。

それは、死だ。しかも頭上から落ちてきた鉄骨が私の頭に向けキレイに垂直落下すると言う、普通じゃない死に方。

 私は最後まで普通じゃなかった。



 それは、今も同じ。

死んだ私の目の前には私とは真反対の真っ白なパーカーをラフに着こなした少し年下だろうと思われる少年がいる。

彼のパーカーと同じく真っ白な空間には何もなく、明らかにこの場所は普通ではない。


「君は落ち着いているね。大抵の者は取り乱すというのに」

「・・・普通じゃない環境で育ったからね。君は誰?私は死んだ、ようやく自由になれた。死に方こそ普通じゃなかったけれど。」

「自由になれた、か・・・・。質問に答えよう。僕は君ら人間で言う神さ。名を、月詠命。」

「・・・・・へー。三貴神のね。」

「あまり驚いていないんだな。それに、僕を知っているか」

「・・・驚くのは労力を使うから。日本人なら常識。」

「そうでもないさ、僕と言う単体を知っていても、三貴神を知らない者は五万といる。姉や弟が僕と兄弟であるのも知る者は少ない。」

「・・・そう。それで、用は何?」

「君は親しく無い者には本当に無口だな。

用件は簡単さ、今から提示する二つ以外選ぶ事は出来ないことを先に言っておく。」

「嫌な予感しかしない・・・」

「一つは、君に別の世界に行って貰おうと言うモノだ。こちらは君たちでいうファンタジーゲームの中に近い。ただ、能力はこちらで付与する為、力を選ぶ事は出来ない。」

「・・・」


 無言で先を催促する。


「もう一つは現世に戻るというものだ。

実を言えば君の死はこちらの不手際によるもの。よって君が選ぶならもう一度君を人の子たちの世界に降ろそうと決まった。」

「・・・あの世界は私にとって地獄だった。少しだけの温もりが生き甲斐だった。」

「・・・・・」


 月詠命は何も言わない。


「私は、あの世界には戻らない。私は、異世界に行く。」

「そうか、よく言った。選べよ、少女。0からのスタートか、15からのスタートか」


 月詠命はさっきまでのフランクなしゃべり方は何処へやら、いきなり威厳を感じるしゃべり方になる。


「任せる」

「・・・君の人生だろうに。しかし、承った。世界の説明はしない。君が肌で感じるが良い。能力以外の注文ならば受け付けよう。

あと、5分で転生を始める。タイムリミットはそれまでだ。」

「予備のパーカーと黒のジーンズを。

あとは音楽プレイヤーに私の好きな音楽を入れて不壊属性でもつけといて」

「ここだけは流暢だな、承った。それ以外は無いな?」

「・・・」


静かに頷く。


「そうか、時間だ。君に幸福が訪れることを切に願う。」


 バチッと言う音と共に、私は転送された。

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