第55話二人の神様のケンカ・リビングアーマー編

「おや、テヅカはんやおまへんか。あんさんのリビングアーマーの『モンスター大使』見させてもらいましたで。あの、一枚絵をスライドさせたり、ズームイン、ズームアウトさせる手法はおもろかったで。ああやって一枚絵を動かせはるんなら、アニメとやらの手法で動かすシーンに気合を入れられるやろな。実際、上半身と下半身のリビングアーマーがグリグリ動いとるシーンは見事やったわ」


「それはどうも、ツブラヤさん。あれは、ツブラヤさんの『モンスターQ』を見て思いついたんですよ。ツブラヤさんは、4つに分離させたリビングアーマーを飛行させましたけれど……下半身だけのリビングアーマーがドタドタ走り回ってる方が絵的に面白いと思いましてね。特撮でそんな映像作れないんですか? リビングアーマーの格好したツブラヤさんところの役者さんの下半身だけを映すとか……そんなチャチなマネをしたら、視聴者にすぐにバレてしまいますね。これは特撮に不案内な私の素人発言でした」


「そうなんや。テヅカはんのところでは、なんやセル画ちゅうもんをパラパラさせて動画にしとるみたいやけれど、わしのところでは実際の映像をカメラで撮影して生放送しとるさかいな。そんなことはできへんのや。仮に、実際の映像を撮影して、しばらく後になっても再生できる都合のいいなにかがあったとしても無理やろうな。リビングアーマーの模型を撮る。模型をちょっとだけ動かす、撮る。なんてことを繰り返せば動いてるような映像が作れるだろうけど……とてもじゃないけどそんなこと週のレギュラー放送ではできへんわ」


「私のところで働いているアニメーターさんはそのへん優秀でしてね。彼女がたいへん早く動画を仕上げてくれますから、週のアニメのレギュラー放送なんてことができるんですよ」


「ほう、テヅカはんは優秀な弟子がおられるみたいやな。わしのところにも目をかけとるもんがいてな、スーツアクターちゃんっちゅうんやが……これがごっついええ着ぐるみの演技をするんですわ。そんなスーツアクターちゃんの演技を見たら、これはテヅカはんもインスピレーションを刺激されるでしょうなあ」


「それは、ツブラヤさんの『モンスターQ』がわたしの『モンスター大使』よりも先に放送されていることを意味しているんでしょうか。私がツブラヤさんをパクっていると」


「誰もそんなことは言うておりませんがな。わしが特撮で地震で壊滅する遊園地を撮影したら、テヅカはんの『モンスター大使』で地震で倒壊する家の映像が放送されたなんて、この世界ではよくあることやさかいな」


「そうでしょうとも、ツブラヤさん。なにせ、地震で倒壊するハカセ宅をアニメで表現したのはツブラヤさんが地震で崩壊する遊園地のシーンを放送したよりも前ですからね。地震をモチーフにして作品作りをするなんて、誰にでも思いつくアイデアです」


「せやけどなあ、テヅカはんのゴーストとヴァンパイアのアニメでは、地震のシーンゆうても登場人物が『地震だ!』なんて叫ぶだけで、あとはちゃちく柱が折れて壊れた家が静止画で映されとるだけやったからなあ。その点、今回の地震のシーンはようできとったな。静止画の家をグラグラ揺らして。あれ、カメラを揺らしとるんやろ。はて、どこかで聞いたようなテクニックやな」


「そういえば、今回のツブラヤさんの『モンスターQ』では、子役がいろいろしゃべっていましたね。うん、だんぜんそっちの方がいいですよ。ナレーションと巨大モンスターの鳴き声だけよりもずっといい。あの手法はだれが考え出されたんですか?」


「スーツアクターちゃん。なんでわしを羽交い締めにしてるのかな」


「それは、ツブラヤ先生がこのままでは取っ組み合いを始めてしまうからです。わたしのことをテヅカさんに自慢してくださったことはありがたいですけれど、こんなところで揉め事を起こされては困ります」


「アニメーターさん。どうして私を羽交い締めにしているんですか」


「それは、テヅカ先生がこのままでは取っ組み合いを始めてしまうからです。わたしのことをツブラヤさんに自慢してくださったことはありがたいですけれど、こんなところで揉め事を起こされては困ります」


「放ししいや、スーツアクターちゃん。このテヅカっちゅうクソガキをいっぺんひっぱたいてやらないと気が済まん。おいテヅカ、なんやメインキャラクターを構想しとるらしいな。奇遇やな。わしもや。せいぜい気張ってわしのパクリなんて言われんようなものを作るんやな」


「お放しなさい、アニメーターさん。このツブラヤなんて老害を、こらしめてやらないとなりません。ツブラヤの方こそ、主役を張るキャラクターの案を練っているそうじゃないですか。偶然ですね。私もです。まあ、張り切ってテヅカさんのキャラの方が可愛いなんて言われないようにしてください」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る