第56話奴隷のリビングアーマー
ツブラヤさんの特撮もテヅカさんのアニメも大反響だったみたいだし、またリビングアーマーさんが奴隷として人間に買われてたりしているんだろうかなあ。
「勘弁してください。わたしはリビングアーマーですが、特撮やアニメみたいに上半身と下半身を別々にはなれませんよ」
「何を言ってるんだ。俺はテレビの『モンスターQ』でリビングアーマーが体を分裂させているところを見たんだぞ。いや、わかってる。あんな巨大なリビングアーマーがいるわけないってことは。そのくらいはわきまえているさ。等身大のリビングアーマーをなんやかんやして巨大に見せているんだろう。でも、あんな分裂は着ぐるみを着た人間には無理だからな。きっと本物のモンスターのリビングアーマーを撮影に使ってるんだ。だからあんな分離形態で飛行するなんて映像が作れるんだろう。ということは、モンスターのリビングアーマーは分離できるんだろう。さあ、やってみせろ。そのために俺は安くはない代金を支払ったんだぞ」
わあ、やっぱり。しかも、ツブラヤさんが操演で作り上げた特撮の映像を、本物のモンスターのリビングアーマーさんが分離して撮影した映像だと勘違いしてる。それだけツブラヤさんの特撮映像が真に迫っていたってことだろうけれど……
「無理です。わたしは鎧と言っても、リビングアーマーなんですから。体がバラバラになるときはわたしが死んじゃうときなんです。わたしが生命を失って、ただの物質としての鎧になればバラバラにはなりますが……わたしはこの通り生きていますから。上半身と下半身を分裂させるなんて無理なんです」
「嘘を言うな、奴隷のくせに。アニメの『モンスター大使』でだって、上半身と下半身に分離したリビングアーマーが別々に動き回っていたじゃあないか。本物のリビングアーマーが分離して動けないって言うのなら……じゃあリビングアーマーが分離して動き回るなんて発想はどこから出てきたんだ! 本物のモンスターがしないような動きを、人間がゼロから発想したって言うのか! そんな発想ができる人間がいてたまるか!」
実際にツブラヤさんがその発想をして、特撮で映像を作り上げていったんだけど……このリビングアーマーさんを買った人間にそんな話ししても信じてもらえそうにないし……アニメの『モンスター大使』を見たってことは……いつもの手でいくか。
「こら! いい加減にしなさい」
「そ、そのお声は……間違いない。その聞いただけで僕ちゃんのようなやっすいやっすい低賃金からひねり出したお金で奴隷を買うしか楽しみがないような小市民が震え上がってしまうような悪役ボイス。これは『モンスター大使』で、かわいそうなゴーストちゃんやヴァンパイアちゃん、それにリビングアーマーちゃんをいびりたおしている鬼上官の声に間違いない」
わあ、やっぱり。あたしの声を、『モンスター大使』の鬼上官の声と認識している。
「ひええ。僕ちゃんたち人間を襲うモンスターはおそろしい。だから僕ちゃんはモンスターを奴隷にしてスカッとする。でも、『モンスターQ』や『モンスター大使』のゴーストちゃんやヴァンパイアちゃん、それにリビングアーマーちゃんはかわいい。そんなかわいいモンスターを奴隷にしちゃうなんてことはなんだかアブノーマルだ。で、そんなアブノーマルな僕ちゃんが鬼上官にしかられている」
この人なんだか言っていることが混乱しているな。でも、こういうモンスターを怖がって奴隷にしていた普通の人が、『モンスターQ』や『モンスター大使』を見てモンスターをかわいいと思うようになることは人間とモンスターが仲良くなれる一歩なのかもしれない。
「ああ、ここに鬼上官がいるってことは、今から僕ちゃんが買った奴隷のリビングアーマーが鬼上官に激しくお仕置きされるんだ。『モンスター大使』だとアニメだからコミカルに見られるけれど、実際に本物のリビングアーマーが鬼上官にお仕置きされるところなんてとてもじゃないけれどスプラッターでグロテスクで見るに耐えられないものになるに決まってる!」
もしもし。実際のモンスター軍ではそんな恐ろしいことはおこなわれていませんよ。
「そんなもの、僕ちゃんみたいな一般人が見たら精神をやられて発狂しちゃうんだ。ここは逃げるしかない。ああ、でも、鬼上官のお声を直接この耳で聞いたんだ。あの背筋が震え上がるようなお声、この先ずっと一生頭から離れないトラウマになっちゃうんだろうな。友達の『俺もあの鬼上官にののしられたい』なんてことを言っている上級者な『モンスター大使』ファンに自慢してやろう」
あ、リビングアーマーさんを買った人が逃げて行っちゃった。あれは喜んでいるのかな。トラウマなんて言ってたけれど……その買われていたリビングアーマーさんがおびえてる。心なしかさっきの人にムチャな要求をされていた時よりもおびえているような……
あたしは鬼上官じゃありませんよ。アニメのキャラクターの鬼上官と、声をあてているあたしをいっしょにしないでくださいね。
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