第54話アニメのリビングアーマー・反応
「いやあ、今回のテヅカ先生の『モンスター大使・リビングアーマー編』はもう大反響だったよ、ユウシャさん」
ベンチャーさんがすごい興奮してる。無理もないか。今回の『モンスター大使』は出来が半端じゃあなかったからな。作っているスタッフの熱気が違ったもん。
「白状しますとね、ユウシャさん。今までテヅカさんの『モンスター大使』のアニメには否定的な意見も来てたんですよ。正直、ユウシャさんやテヅカ先生に伝えることをためらうくらいのものが。『申し訳程度に動いているが、あんなのテレビでやる意味あるのかね? 紙芝居と大差ないじゃないか』とかですけれども」
そんな意見があったんだ。
「実際、局の内部では打ち切りの案も出てたんです。『あのアニメはツブラヤ先生の特撮人気におんぶにだっこされてるだけじゃないのか』とか、『あれは要するに、テヅカの漫画のCMだろう。本編まるまるCMだなんて、そんな番組を社長は作っていくおつもりなんですか』とかね。でも、そんな連中はあの3話を見てころっと手のひらをひっくり返したよ。『アニメはすばらしい。あれこそ文化だ』とか、『アニメが視聴率が取れる終わらないコンテンツだ』とかね」
第3話! 上官の声当てが終わってから、あたしはただの番組視聴者になってたけど、アニメーターさん渾身の動画作画に、オペレーターさんとベンシさんの声の演技がミックスアップされて、見ててビンビン来ちゃったからなあ。
「アニメの撮影でもカメラを動かす手法が使えるなんてね。その手法で節約できた作画リソースをクライマックスシーンにつぎ込んだだけあって、ラストの上半身と下半身のリビングアーマーさんがはしゃぎまわるシーンから、ハカセが投げ縄でリビングアーマーさんを救出するシーンは圧巻だったよ。わたしも見ててゾクゾクしてきちゃったね」
あそこのアニメーターさんの作画は神がかってたからなあ。
「で、テヅカさんの『モンスター大使』にもスポンサーの打診がいくつか来たんだ。おもちゃ会社とか、お菓子会社とかからね。それでね、『メインとなるキャラクターが欲しい』なんてスポンサーの意向なんだ。たしかに、今までの『モンスター大使』の作り方だと、メインのモンスターさんが週替わりじゃない。スポンサーさんが、『それじゃ困る。作品の顔となるキャラクターが欲しいだなんて言ってきてね」
作品の顔かあ。
「ユウシャさんが声を当てているモンスター軍の上官さんも一部のニッチなファン層にコアな人気を獲得しているらしいんだけれど……上官さんが万人受けするキャラクターかと言うとねえ……上官さんの声であるユウシャさんを目の前にして言うのもなんだけれど」
たしかに上官さんは万人受けしないだろうな。あたしの声を聞いただけで上官さんの声だってわかるような人は別だろうけれど。
「かと言って、ハカセさんもメインを張れるキャラクターかと言うとそうでもないし……ハカセはお母さんポジションだからね」
メインを張れるキャラクターかあ。どんなキャラクターなんだろう。
「実はね、ツブラヤさんサイドにもスポンサーさんから似たような発注がいってるらしいんだ。ツブラヤさんの『モンスターQ』も、メインのモンスターが週替わりじゃない。なにかこう、作品の象徴的なキャラクターが欲しいらしいんだよね」
「あの、ベンチャーさん。その話、テヅカさんにも伝わってるんですか?」
「それが、伝わってるんだよ、ユウシャさん。なんでも、『新しいメインキャラクターを作れ』なんていきなりテヅカさんに言ったら、テヅカさんがヘソを曲げるんじゃあないかってスポンサーさんが気をもんでね。『実は、ここだけの話なんですが、テヅカさん。ツブラヤさんの特撮がメインを張るキャラクターの構想を練っていると言う情報が入りまして……』なんてテヅカさんに耳打ちしたらしいんだ。なにせ、テヅカさんったらあんな感じでしょう。そんな話を聞いたら、自分のアニメでも主役級のキャラクターを出さずにはいられなくなっちゃうよ」
テヅカさんならそうなるだろうなあ。
「で、ツブラヤさんにもスポンサーさんが……と言っても同じおもちゃ会社なんだけど。『テヅカさんがアニメで主役になるキャラクターを登場させようと悩み抜いてる』なんて伝えてるんだよ。スポンサーさんもえげつないことをするよねえ。テヅカさんとツブラヤさんを自分のところが煽って、自分のところの会社のおもちゃが売れるキャラクターを両方に作ってもらおうとしてるんだから」
そのスポンサーのおもちゃ会社……番組の内容はどうでもよくて、自分の会社のおもちゃが売れればそれでいいんじゃあ……
「いやいや。こんな状況で、テヅカさんとツブラヤさんが顔を突き合わせたら……それはもう大変なことになってしまうだろうね。おお、くわばらくわばら」
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