第53話アニメのリビングアーマー・撮影
「そして、二本の柱が折れるシーンです。再び撮影カメラを切り替えます。地震が起きてるわけですから、撮影カメラを揺らしますよ。そして、背景に、二本の柱だけ書かれていないハカセ宅。そこに、あわてているハカセ、上半身のリビングアーマー、下半身のリビングアーマーをそれぞれ描いたセル画を3枚重ねます。その上で、ぽっきり折れる二本の柱のセル画をパラパラさせます。ここの動画もアニメーターさんに頼みます。トレースと彩色もしっかりお願いしますよ」
「了解です、テヅカ先生」
そういえば、今までの二本の『モンスター大使』は地震のシーンと言っても、慌ててるハカセとモンスターさんが静止画で映って、オペレーターさんとベンシさんが『地震だ!』なんてセリフを言うだけだったな。今回は、画面がグラグラするのか。楽しみだな。
「お次は、背景に二本の柱だけ描かれていないハカセ宅。そこに柱の代わりとなってハカセ宅を支える上半身と下半身のリビングアーマーを2枚のセル画にそれぞれ描いて重ねます。そこに、急いで家から這い出して投げ縄でリビングアーマーを引っ張り出すハカセの動画をセル画でパラパラさせます。ここもアニメーターさんの動画です。トレースと彩色もお願いします」
「任せてください、テヅカ先生」
アニメーターさん、動き回るリビングアーマーさんに、ぽっきり折れる二本の柱。そして、投げ縄を投げるハカセを作画するのか。すごい量になるのに……
「あああ、ここで倒壊するハカセ宅を動画でやりたい。でも、時間も人手もお金もない。すいません、みなさん。ここは瓦礫となったハカセ宅の静止画で済ませます。そこに効果音でごまかすことにしましょう」
生放送でアニメをセル画でパラパラさせて動かすのって、あらためて大変なんだな。カメラを何回も切り替えないといけないし。パラパラさせるセル画にはパラパラさせる動画を1枚にしっかり書き込んでおかないといけない。パラパラさせる部分だけは重ね合わせで表現できないからな。今までのゴーストさんとヴァンパイアさんのアニメはそこが難しくて口だけ動いてるとか、紙芝居とかいう人もいたみたいだったけれど……
カメラを動かすことで、スライドやズームイン、ズームアウトができるようになった。だから、ワンシーンに動画のリソースを集中できてグリグリ動かせるようになったんだ。それでもテヅカ先生は満足できないのか。家の倒壊シーンを動画でやりたいだなんて。
「そして、ラストシーンです。地面にへたりこんで笑顔のハカセに、笑っている様子の地面に倒れ込んでいる上半身と地面に座り込んだ下半身のリビングアーマー。ハカセとリビングアーマーのズームインから止めて引きます。ズームアウトして、倒壊したハカセ宅が徐々にテレビに映っていきます。『モンスター大使・リビングアーマー編』これにて終了です。それではみなさん、作画を開始してください。アニメーターさん。これが私の描いた原画です。この中割りの動画をお願いしますよ」
「なんとしても放送時間に間に合わせます、テヅカ先生」
わ、テヅカさんの合図でアニメーターさんたちスタッフがいっぺんに作業を始めた。アニメーターさんがすごい勢いで原画の中割りの動画を紙に描いている。描いたそばから、その紙を他のスタッフさんがセル画にトレースしてる。アニメーターさんは一人なのに、トレースのスタッフさんは三人もいる。それだけアニメーターさんの筆が速いのか。
そして、トレースが終わったセル画に彩色のスタッフが白黒の色をつけている。彩色のスタッフさんはトレースのスタッフさん一人に対してこれまた三人だ。あ、アニメーターさんが上半身と下半身のリビングアーマーさんが動き回るシーンの作画に入った。ええ、上半身と下半身が全然違う動きしてる。いっしょに動くっていうから、てっきり上半身と下半身が同じタイミングで似たようなラジオ体操みたいな動きをするものとばかり思っていたのに、上半身と下半身がしっちゃかめっちゃかだ。一枚の紙への一発書きで、なんでこんなことができるんだろう。
うわあ、別のスタッフさんが描いた上官の怒鳴り声のシーンの作画も気合入ってる。テヅカさんは新規作画なんて言ってたけど、新しく一から描いてこのクオリティなのか。彩色されたセル画を見てるだけで、なんだか怖くなっておしっこ漏らしちゃいそう。この上官さんに、あたしが声を当てるのか。ううん、気合入ってきた。
「それでは、ユウシャさん、オペレーターさん、ベンシさん。セリフの打ち合わせに入ります。私のところに来てください」
テヅカさんの呼び出しだ。あたしの出番は、リビングアーマーさんをいびるところだけだけど……あんな気合の入った上官の作画を見せられたら、こっちだってやる気出てきちゃうよ。なんだかすんごい悪役を演じられそうな気がする。
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