第52話アニメのリビングアーマー・稽古
「さあ、まずは画面左の軍の上官に、画面右のリビングアーマーがいびられているシーンです。今までは、しょんぼりしているモンスターはしょんぼりして動かないまま。いびっている上官も姿勢はそのままで、口の部分だけをセル画でパラパラさせてましたが、今回からはそんな動いているのは上官の口だけとはいきませんからね」
テヅカさん、張り切ってるなあ。新しい演出方法を試してみたくてしょうがないってかんじ。
「はい、カメラさん、セル画の左から右に撮影していってください。これで、しょんぼりしているリビングアーマーがまず画面の右から映り始めて、右から左へと横移動していきます。そして、上官が右から登場。画面に上官とリビングアーマーが映ったら、カットが上官の怒鳴り顔になります。ここは新規作画ですね。そして、リビングアーマーが左下から右上にスライドさせつつズームアウトさせます。カメラさんが遠ざかっていくんですね。そうすれば、リビングアーマーが小さく映るようになりますから。これで、上官の怒鳴り声に驚いたリビングアーマーが空高く飛んでいってしまうシーンが撮れるんです」
聞いてるだけで撮影が大変だってわかるなあ。今まででも撮影カメラを切り替えたり、セル画をパラパラさせたり大変だったのに。それに、カメラの移動が加わるんだもんなあ。
「そして、リビングアーマーが画面の上から下へスライドしていきます。これで落っこちるシーンですね。そして、撮影カメラを切り替えて画面を地面の絵にします。その地面の絵にズームインすることで、リビングアーマーの視点で地面に激突するところだと演出するんですね。また撮影カメラを切り替えて、バラバラになったリビングアーマーの絵を映します。カメラでズームインとズームアウトを繰り返します。なんてこったいという表現ですね」
カメラを動かすという方法があるだけで、いままで口だけ動く上官にいびられるモンスターってだけのシーンが、こんなにダイナミックになるのか。
「それを発見して驚いてリビングアーマーに駆け寄るハカセのシーン。まず、驚いているハカセの一枚絵を映し、そして撮影カメラを切り替えて下半身を渦巻きにしたハカセを画面の右から左にスライドさせます。これで、セル画のハカセは動いていなくても画面のハカセはリビングアーマーに駆け寄っているように見えます」
本当だ。画面ではハカセが走っているように見える。
「そして、バラバラになったリビングアーマーを風呂敷に包むハカセのシーンです。背景に広げられた風呂敷とバラバラになったリビングアーマー。そして、その周りでうろちょろするハカセを3パターンほど描いて、その3パターンのセル画を何度もパラパラしていれば、ハカセがバラバラになったリビングアーマーを風呂敷で包んでいるように見えます」
間に動画を入れなくても、うまいことすればテレビアニメでは動いているように見えるんだなあ。
「そして、風呂敷包みを背負ったハカセの上半身。これは動かす必要はありません。町の背景を右から左にスライドさせることでハカセが左から右に歩いているように見えますから」
これは、円谷さんが分裂したリビングアーマーを撮影したのと同じ手法だな。
「さあ、ここからがアニメーターさんの腕の見せ所ですよ。今までは止め絵をカメラのどうこうで動いてるように見せていたわけですから、そこに動画担当であるアニメーターさんは参加しなくて結構です。そのかわり、ここからのシーンにアニメーターさんのリソースを集中します。下半身だけのリビングアーマーに、上半身だけのリビングアーマーが動き回るわけですからね。アニメーターさん、気合い入れて動画を描いてくださいよ」
「はい、テヅカ先生!」
たしかに。これまでのテヅカさんの演出だと中割りの動画はいらないな。となるとアニメーターさんの出番もないんだけれど……後半にアニメーターさんの作画を集中させるのか。
「まず、背景がハカセの自宅です。そこに難しい顔をして、なにかを組み立てているハカセのセル画が重なっています。そこで、下半身だけのリビングアーマーを動き回らせるんです。ここではリビングアーマーの下半身をグリグリ動かす動画をアニメーターさんに紙に描いてもらい、それを動画台でセル画にトレース。そして彩色します。
なるほど。いままで、アニメーターさんが紙に書いた動画がどうセル画になるのかわからなかったけれど、こういうシステムなのか。
「そして、撮影カメラを切り替えた次のシーンで、背景のハカセの自宅。それに重なるセル画の驚いているハカセ。そこで上半身だけのリビングアーマーと、下半身だけのリビングアーマーがグリグリ動いています。今回は、セル画をパラパラするわけですから、別々のセル画に描いたものを重ねるわけにはいきませんよ。一枚のセル画に、上半身と下半身のリビングアーマーを書かなければいけないんです。アニメーターさん、大変でしょうがやってもらいますよ」
「はい、テヅカ先生」
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