第51話アニメのリビングアーマー・打ち合わせ
「さあ、ユウシャさんにオペレーターさん、そしてベンシさん。これが今回のモンスター大使の原作です。前回の撮影で生原稿だとどうのこうのなんて言われましたから、アニメーターさんに模写してもらいました。まったく、アニメーターさんと言う人は私が1時間以上かけて描いた原稿を、ものの数分で寸分たがわずそっくり書き上げてしまうんですからね。これは、私がアニメーターさんの才能に嫉妬してアニメ制作に左遷したなんてウワサが流れてしまうかもしれませんね」
「そんな、だってテヅカ先生は話を考えながら原稿を描かれているではありませんか。話を考えなくてもいいわたしとテヅカ先生を比べること自体が間違ってますよ」
「はたして、そう思ってくれる人ばかりでしょかね。なかには、私のことを悪く言う人もいるのではないかと……ああ、御三方。早く原作を読んでください」
へえ、テヅカさんって自分の悪評を気にする人なんだ。あれだけ面白い作品をたくさん作る人でも、自分の漫画を悪く書かれたりすると落ち込むのかな……おっと、原作を読まないと。
あいかわらず、モンスター軍の上官がリビングアーマーさんをひどく折檻してるな。今回もこのこっぴどい上官をあたしが演じるのか……で、続きはと。わ、リビングアーマーさんが上官にぶん殴られて、バラバラになっちゃった。ツブラヤさんの特撮の頭部、胸部、腹部、下半身の4つなんてものじゃない。もう、メッタメタのバッラバラだ。
そこのハカセが通りがかって、バラバラになったリビングアーマーさんを組み立て始めるのか。お、まず下半身が完成した。それを見たリビングアーマーさんの頭部が『ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか』とセリフ。その辺りを走り回る下半身。ハカセのセリフ『こら、下半身を落ち着かせなさい』……
なるほど。下半身だけを動き回らせる。これは今の特撮じゃあできない表現だな。人間のスーツアクターさんは絶対できないし、ピアノ線での操演でもあんまりアクロバティックな動きは無理だろうし。モンスターのリビングアーマーさんは人間との共演が無理だし。これはアニメで動くのが楽しみな表現だな。
で、上半身も完成。例によって例のごとく地震で崩れそうになるハカセ宅。今度は柱が二本折れそうになる。その二本の柱をリビングアーマーさんの上半身と下半身がそれぞれ支える。先にハカセが逃げ出し、そのハカセがリビングアーマーの上半身と下半身に投げ縄を絡めてひっぱって救出。笑い合うハカセと、上半身と下半身が分かれたリビングアーマーか。
「どうですか、ユウシャさん。こんな表現、ツブラヤさんの特撮ではできませんよね。ツブラヤさんの『モンスターQ・リビングアーマー編』を拝見させてもらいましたけれどね、リビングアーマーが分裂するアイデアはいいでしょう。その分裂したリビングアーマーが空を飛んでいくシーンも背景の空や雲が高速で動いていて、本当に空を飛んでいるみたいでした。ですが、どうせなら下半身だけで走り回るリビングアーマーを見たいじゃありませんか。上半身だけで地面を這いつくばるリビングアーマーを見たいじゃありませんか。そうでしょう、ユウシャさん」
「そ、そうですね、テヅカさん」
やっぱりテヅカさんツブラヤさんの『モンスターQ』を強烈に意識しているなあ。
「そして、あの『モンスターQ』での地震のシーン。あんなシーンをどうやって撮影したのか私は頭をひねりにひねりましたよ。本当に地震を起こしたのかなんて思いもしました。そして、わたしはあるアイデアが閃いたのです。これは動いているのは撮影カメラの方ではないかと。やや、ユウシャさん。その表情からすると図星みたいですね」
あちゃあ、あたし顔に出しちゃったか。これ、ツブラヤさんに後で怒られたりしないかな。『わしの特撮技法をテヅカなんぞにバラすとは。貴様、スパイだったのか』なんて。
「となると、その技法はアニメ撮影でも使えますよね。そうなんですよ。セル画を撮影するカメラを固定する必要なんてまったくないんです。撮影しているセル画を上下左右に動かせば1セットのセル画で上下左右に動かせますし、セル画をカメラから近づけたり遠ざけたりすることで、キャラをズームイン、ズームアウトできるようになるんです。これは、いろんな演出ができるようになりますよ。アイデアが次から次へと出てきてしまいます」
なるほど。今までは、背景の一枚絵やセル画を何枚も重ねてワンカットにしたものに、動画にする部分を何枚も重ねて、カメラの前でパラパラさせて直接パラパラするセル画をカメラで撮影してそれをダイレクトに生放送してたんだよね。テヅカさんもボヤいてたな。『セル画を撮影した映像を保存できる何かがあれば、こんな苦労はしなくて済むのに』なんて。
背景が変わるシーンでは、撮影カメラを変えて別のカットのセル画を映してたんだよね。もう、アニメの生放送って、ただパラパラ漫画をカメラで撮ってればいいってものじゃないんだよね。なにせ、アニメのワンカットって背景やセル画が何枚も重なってるのを撮影するものだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます