第50話特撮のリビングアーマー・反応

「いや、ユウシャさん。今回のツブラヤさんの『モンスターQ・リビングアーマー編』も凄かったね。なにせ、最後の遊園地が地震で崩壊するシーン。あれ、せっかく作った遊園地のセットを一回使っただけで壊しちゃったんでしょう。景気がいいと言うか、もったいないと言うか……」


「でも、セットを壊してるスタッフさんはなんだか楽しそうでしたよ。自分たちで作ったセットを番組で活用して、その番組のラストでめちゃくちゃに壊しちゃうんですからスカッとするみたいです、ベンチャーさん」


「それにしても……あの番組が放送された翌日、遊園地にお客さんが詰めかけたそうじゃない。『遊園地はしっかり営業してる。よかった。崩壊した遊園地はなかったんだ』とか、『やっぱりあれはフィクションなんだな。こうして遊園地はしっかり営業してるもんな』なんて言ってるお客さんもいたりして。特に、リビングアーマーさんが支えた観覧車は大盛況だったみたいじゃないですか」


「そうなんですよ、ベンチャーさん。親子連れできて、『ママ、もしもの時はリビングアーマーさんが助けてくれるから安心だね』なんて言ってる女の子がいたんですよ。そうとうラストのリビングアーマーさんが観覧車を支えて、ゴンドラからお客さんを救出するシーンが視聴者に印象深かったみたいで。リブングアーマーさんの握手会も大変だったんですよ」


「へえ、どんなふうに大変だったんですか」


「リビングアーマーさんについたファン層ってのが、子供たちだけでなくそのお母さんも取り込んだみたいでして……地震から人間を助けるモンスターってのがお母さん層のハートをつかんだようでして。握手会では子供に握手する。その母親に握手する。また子供に握手する。の繰り返しで、お母さんとお子さんでは身長が違いますから、リビングアーマーさんの衣装着たスーツアクターさんが一組の親子ごとにスクワットをする格好になったんですね。それを百回単位でやったんですよ。リビングアーマーさんの衣装結構重いのに。あたしが裏からこっそり回復魔法かけてたんですよ」


「それはそれは……そのうえ、遊園地がお客さんでごった返しになっただけじゃなく、ツブラヤさんは新しいスポンサーも手に入れたそうじゃないか。なんでも、遊園地で保険会社がビラ配ってたそうでね。『もしもの時のための地震保険』なんてビラをね。で、それを目にしたツブラヤさんがさっそく交渉を始めてね。めでたくその保険会社が『モンスターQ』のスポンサーにあいなったんだから……ツブラヤさんも特撮撮影だけじゃなく、商売人としても目端が効くよね。わたしも見習わなきゃあ」


「これでますます特撮セットも豪華になると思います」


「展望台からの布製シューター滑り台も大好評なんだって。すごい行列だったとか」


「そうなんですよ。ツブラヤさんに遊園地のアトラクション担当の人が『今度はどんな特撮をなさるんですか? ぜひ、うちのアトラクションを活用した特撮を作ってください。ツブラヤさんの特撮を見た子供がうちの遊園地に来たくて来たくてたまらなくなるような特撮を。うちは全面協力しますから。なんなら、新規でアトラクションを作らせてもらいますから』なんて頼み込むんですよ」


「それはそれは。で、ツブラヤさんはなんと答えたんですか、ユウシャさん?」


「それが、ツブラヤさん『そないなこと言われても、わし、このお嬢ちゃんの作るドキュメンタリー見て特撮撮影のモチベーションにしとるさかいな。このお嬢ちゃんが新しくドキュメンタリー作らんとどうにもならんのや』なんて、あたしに遊園地のアトラクション担当さんを押し付けるんですよ。ツブラヤさんが保険会社の対応でいそがしいのはわかりますけれど、あたしにそんな対応求められましても……」


「でも、ツブラヤさんの特撮もテヅカさんのアニメもユウシャさんのモンスタードキュメンタリーから着想を得ているわけだし……ツブラヤさんの言うこともあながち間違いじゃないんじゃない?」


「あたしはただモンスターマスターちゃんの仲間のモンスターさんを撮らせてもらってるだけですよ。その撮影だって、オペレーターさんやベンシさんが全部声を当てているわけですし、あたしがドキュメンタリーを作らないとどうにもならないと言われましても」


「でも、ユウシャさんがいなかったらモンスターマスターさんとオペレーターさんやベンシさんとの接点はなかったわけでしょう?」


「それはそうですけれども……」


「となると、モンスターさんのドキュメンタリーと『モンスターQ』、それに『モンスター大使』の製作は全てユウシャさんの手の内にあることということですか。これは、このテレビ局の社長であるわたしもユウシャさんには頭が上がらなくなってしまいますね。おっと、わたしがユウシャさんに頭が上がらないのは昔からですかね。なにせ、出会いが出会いでしたからね」


「もう、初対面の時の話はやめてくださいよ、ベンチャーさん。あの時のことは思い出しても恥ずかしくなるんですから」


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