第49話特撮のリビングアーマー・撮影

「そろそろ本番の時間やな。オペレーターちゃん。台本通りナレーションしてな。ベンシちゃんも、リビングアーマーの鳴き声よろしゅう頼むで。スーツアクターちゃんもしっかりな。カメラ、照明、音響、特殊効果のみんなも気張ってや。よっしゃ、時間やな。始めるで」


 さあ、『モンスターQ・リビングアーマー編』の始まりだ。


「ここは休日の遊園地。親子連れの楽しそうな声が聞こえてきます。ここだけはモンスター軍の脅威を忘れられる場所なのです」


 オペレーターさんがナレーションを入れながら、カメラさんが遊園地のミニチュアを上から空を飛んでる鳥の視点で撮影してる。スタジオでの生放送で、休日の遊園地を撮影しようと思ったら、こうするくらいしかないんだろうな。実際の遊園地の映像を中継映像で伝えたり、あらかじめ映像を作っておくことができないんだから。


「ああ、なんということでしょう。遊園地の遠方から、巨大なリビングアーマーが歩みを進めております。この遊園地でも、モンスター軍の危害からは逃れられないのでしょうか」


 それにしても、ドキュメンタリーの時はベンシさんが臨場感あふれる活弁してるからオペレーターさんは淡々とナレーションしてるけど……特撮でオペレーターさんだけがナレーションを担当する時はこういう感情的な実況もするんだな。それが、ミニチュアの遊園地のセットの足元からセットに近づくリビングアーマーさんを上向きに撮影して巨大さを強調する映像とよくマッチして迫力がある。


「リビングアーマーッ」


「やや、これはどういったことでありましょう。リビングアーマーが鳴き声を発すると、その自身の鎧が分裂して宙に浮かびました。これは怪奇!」


 わ、リブングアーマーさんの頭部、胸部、腹部、下半身を上下逆さまにして、カメラも上下逆さまにして撮影してるのは前回と同じだけど、今回はその後ろで空と雲を描いた絵が左から右に動いてる。なるほど。長い絵を描いておいて、それを巻き取ることで動かしてるのか。巻物を引っ張ると、中の紙がどんどん取り出されていくけど……それを人間サイズにしてるんだな。左側と右側を二人で持って、右側の人が引っ張ってるんだな。これで、テレビ画面では分裂したリビングアーマーさんが右から左に飛んでるように見えるのか。


「楽しい楽しい遊園地。皆さま、家族団らんのひと時はぜひ遊園地でお過ごしください」


 CMに入った。あ、ぶら下がってたリビングアーマーさんの胸部と下半身をスタッフさんが大急ぎで外して、遊園地のセットの方に移動させてる。展望台に滑り台として乗っかる胸部と下半身のシーンもいるもんな。CMの間に準備を完了させないと。そろそろCMが終

わる。


「わーん。怖いよお」


「展望台の子供の悲鳴が聞こえる中、その展望台にリビングアーマーの胸部と下半身が近づいていきます。下半身は股間のあたりを展望台に押し付ける格好で、胸部はその胸の部分を展望台に乗っける形になりました。リビングアーマーの両腕両足が展望台から四方に広がっています。これはどういうことでしょうか」


「リビングアーマーーー」


「これは、リビングアーマーの二つの手のひらと二つのつま先にポッカリと穴が空きました。どういうことなのでしょう」


 わ、手のひらとつま先のセットに、穴が開くギミックが追加されてる。いつの間に? たしかに普段からあんなところに穴が空いているのは不自然だし、このシーンがあったほうが絶対にいいけど……大道具のスタッフさんが疲れ切った様子で満足げにしてる。


「リビングアーマー!」


「これは、展望台に滑り台ができたような格好になっています。たしかにリビングアーマーの中は空っぽですから、滑り台にならなくもないでしょうが……しかし相手はモンスター。何か企んでるかもしれません。おお、ここで一人の少女がリビングアーマーの首から体内に入っていきました。なんと勇敢なのでしょう。そして、リビングアーマーの腕を滑っていき、今手のひらから飛び出しました」


「すっごく楽しかった」


「少女は笑顔で『楽しかった』と感想を述べております。その様子を見た展望台の子供たちが、われもわれもと滑り始めました。リビングアーマーは、遊園地を襲うわけではなかったのです。新しいアトラクションをわたしたちに提供してくれたのです」


 さあ、ここからがスペクタクルシーンの始まりだ。


「展望台の子供たちが全員滑り終えたようです。おや、揺れております。地震です。遊園地が激しく揺れております。アトラクションが、施設が、展望台が次々に崩壊していきます」


 ミニチュアセットの下で、スタッフさんがテレビに映らないようにセットをじゃんじゃん壊してる。心なしか楽しそう!


「そして、遊園地のシンボルである観覧車が今まさに倒壊しようとしています……ああ、リビングアーマーが、巨大リビングアーマーが観覧車をしっかりと支えております」

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