第46話ドキュメンタリーのリビングアーマー・反応

「いや、ユウシャさん。今回のリビングアーマーさんのドキュメンタリーも傑作だったよ。これまでのパターンと違って、モンスターのリビングアーマーさんにコンタクトを取ろうとする人間をフォーカスしたのは良かったねえ」


 ベンチャーさん今回の番組も気に入ったもらえたみたいだな。良かった。


「貧乏見世物小屋がモンスターのリビングアーマーさんをからくり人形として雇うという筋書きもいいね。舞台俳優が設立した役者組合は、『モンスターと共演なんてできない』なんて言って、テレビでは特撮やアニメでしか人間とモンスターの共演が実現しないけど、そんな組合なんてものに属していない場末の見世物小屋では人間とモンスターがいっしょにショーをしてるってのがいいね」


 社長のベンチャーさんも組合との交渉にいやになってるのかな。


「あんがい、規制規制なんてうるさくなってきたテレビよりも、ああいうフリーダムな場末の見世物小屋から新しいエンターテイメントが誕生するのかもね。テレビ放送を実現させたばかりのわたしがいうのもなんだけれど」


 本当ですよ。テレビ放送がまだ始まったばかりだってのに。


「で、見世物小屋でショーを作り上げていくリビングアーマーさんと団員のコミュニケーションも良かったね。なにせ、見世物小屋の団員もひとところに定住していない流れ者集団だからね。そういう人は、街や村で長年同じところに住んでいる人からは白い目で見られるものさ。子供に『そんな悪い子はサーカスに売り飛ばすよ』なんて説教しちゃうくらいだからね」


 なるほど。旅芸人の一座だから、モンスターとも早く打ち解けられたりするのかな。


「『いやあ、うちにはベッドなんてものはなくてね、地べたに雑魚寝さ』なんて言う団員に、リビングアーマーさんが『俺にベッドなんて必要ありませんよ』なんて答えちゃうんだからね。あのシーンは笑っちゃったな」


 たしかに。あのシーンはみんな笑うのをこらえてたな。


「モンスターであるリビングアーマーさんが人間の文化に親しんでいく様子も面白かったね。リビングアーマーさんが客引きをするようになった時、最初は動かずにいてパンフレットを手に持ってるんだよね。それを取ろうとしたお客さんに『よろしければ説明しましょうか』なんて突然動き出して喋り始めるんだからね。で、お客さんは最初は驚くんだけれど、喜んで説明を聞くんだよ。リビングアーマーさん。いままで人間を驚かして、そのあといきなり襲いかかってばっかりだったから、そういうドッキリを人間が喜ぶってのが新鮮だったみたいだね」


 ドッキリなんて文化があることに、リビングアーマーさんも素で驚いていたな。台本作りの時に『ドッキリ! そんなものがあるんですか。それ、された人は怒ったりしないんですか』なんて言ってたから。


「ラストの、芸の対価として支払われたギャラでリビングアーマーさんが奴隷商人から同族のリビングアーマーさんを買い戻すシーンはぐっときちゃったね。人間のふりをしたリビングアーマーさんが、奴隷商人に商品である奴隷モンスターを説明されるときのリビングアーマーさんの雰囲気はなんとも言えなかったなあ。リビングアーマーさんだから無表情なんだけれど、だからこそ鬼気迫るものがあると言うか何というか」


 あのシーンか。撮影本番でもスタジオの雰囲気がピシッとしてたし、そういうのも見てる人に伝わるのかも。


「奴隷商人から同族のリビングアーマーを買い戻して、仲間に自分の正体を明かしたときのリビングアーマーさんのモノローグと言ったら……『あの場で暴れまわりたい気持ちがなかったわけじゃない。でも、そんなことをしてもここは人間の町だ。なにも変わりはしない。だから、人間の勝手に作ったルールにのっとって俺が俺の同族を解放するんだ。俺が人間のルールに合わせた金で俺が奴隷モンスターを買うんだ』いやあ、考えさせられちゃったなあ」


 ラストシーンか。あれを見た人はどう思うのかな。内容がけっこう重たい雰囲気だったけれど。


「さてさて、あれだけのものを見せられたツブラヤさんやテヅカさんがどんな番組を作ってくるか。これはわたしがテレビ局の社長なんてことを抜きにしても、ただ純粋にひとりのテレビ視聴者として楽しみだね。いやあ、ツブラヤさんやテヅカさんも気合が入るだろうから、撮影現場がてんてこまいだろうね。ユウシャさん、いそがしくなるんじゃない」


 ううう。そうなんだよなあ。ツブラヤさんもテヅカさんも、自分が一番先にスタジオ入りして、一番最後までスタジオにいるような人だからなあ。居眠りしてたと思ったら、いきなり『いいアイデアが閃いたから試す』なんて叫び出したりするからなあ。現場では気が休まる暇がないよ。こんなことなら、モンスター退治してた頃の方がよっぽど気が楽だったよ。

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