第47話特撮のリビングアーマー・打ち合わせ

「よっしゃ。今回は、巨大リビングアーマーの分裂でいくで。遊園地に近づく巨大リビングアーマーが、ヘルメット、腕付きの胸部、胴体、下半身に分裂するんや。ん? なんや?『リビングアーマーはパーツがいっぱいあるんだから、もっとたくさんのパーツに分裂して、それがまたリビングアーマーに合体するのがいい』? おう、そのアイデアもいいな。お前たち操演なら、分離形態が4パーツよりたくさんでも十分動かせることはしっかりわかっとる。せやけど、この分離形態にしたのは理由があるんや。とりあえず最後まで聞いてえな」


 ツブラヤさんって、スタッフさんの意見にも耳をかたむけたりするんだな。スタジオのみんなが意見を出し合って番組を作っていこうって感じ。


「ええか、リビングアーマーっちゅうことは、中身は空洞や。で、そんな中身からっぽのリビングアーマーが楽しそうに遊んどる子供がいっぱいおる遊園地に襲来や。前回のヴァンパイア握手会の一件で、遊園地がスポンサーについたさかいな。ごっつい遊園地のセットが完成しとるで」


 ほんとだ。ヴァンパイアさんの握手会が開かれた遊園地にミニチュアセットができてる。すごいリアル。でも、これをリビングアーマーさんが壊しちゃうのか。なんだかもったいない気がするな。


「で、遊園地に襲来したリビングアーマーが4つに分裂。展望台に登っとる子供たちに向かっていく腕付胸部に下半身。展望台が壊されるかと思いきや、展望台から両腕と両足が滑り台みたいになるんや。『リビングアーマーのわいならもっと面白いアトラクションになれるで』っちゅうことやな。そして、実際に子供達が展望台から中身からっぽのリビングアーマーの両腕両足を滑り台にして滑っていくんや。遊園地側とはもう話つけてある。ほんまもんの滑り台を作るんは無理でも、非常脱出用の布製シューターがあるさかい。それにリビングアーマーの腕や脚のイラストをつけて子供たちを滑らせてもらうことになった」


 わ、すごい。ツブラヤさんの『モンスターQ』で遊園地の展望台からリビングアーマーさんの腕や脚を滑り台にして子供たちが滑っていく映像が流れて、それを実際に遊園地で体験できるんだ。


「タイミング的にも、『布製シューターの耐用年数が過ぎそうでどうしようか』ってことになっとったんや。『それならせっかくだから、派手にリビングアーマーのイラストを描いて布製シューターを新調しようぜ』と、遊園地側がわしの提案を快諾してくれてな。せやから、腕や脚は滑り台として一本まるまる残さへんといかんからな。分離形態としてあんまりバラバラにはできへんのや」


 なるほど、だから4つの分離形態になるのか。スタッフさんも『そういうことなら』と納得顔だし。


「そいで、肝心なのは生放送でそれをどう映像化するかなんやけど……なにせ、まだまだ野外ロケで遊園地の映像をテレビ中継する技術はないさかいな。生放送やから、あらかじめ遊園地での映像を作っとくこともできへん。せやから、このスタジオ内で全て演出せなあかんのや。残念ながら、スタジオ内に布製シューターをまるまる一本ぶら下げる高さはあれへん」


 そうか、まだスタジオの外で撮影してテレビ中継することはできないのか。


「で、みんなには子供たちが入っていく入り口となる胸部の首の付け根の部分と下半身のお腹の部分。そして、滑り終わった子供たちが出てくる出口となる二つの手のひらと、二つのつま先の部分を作ってもらう。入り口と出口だけを人間サイズで作って、滑っとる部分はミニチュアセットの展望台にぶら下げた布製シューターの模型で子供が滑っとるように見せるんやな」


 『滑っとるように見せる』か。さらっと言ってるけど、けっこうすごい話のような。


「それで、せっかくみんなに作ってもらった遊園地のミニチュアセットやからな。もちろん壊すで。それも盛大にな。セットを撮影しとるカメラを思いっきり揺らす。これで、テレビを見とるもんには遊園地に地震が起こっとるように見える。そして、遊園地のセットの下には作業スペースがある。そこにいるスタッフが、アトラクションのセットを壊す。これで、地震で崩れる遊園地の映像の出来上がりや。そして、観覧車を根本からグラグラ揺らす。今にも崩れ落ちそうな観覧車を支えるいつのまにか合体したリビングアーマー。この合体したリビングアーマーはスーツアクターちゃんに演じてもらうで」


「はい、ツブラヤ先生」


「で、観覧車の車軸の部分を持ちながらリビングアーマーがゆっくり観覧車を回して、ゴンドラから無事脱出する親子連れたち。ゴンドラのセットを一個作って、そこから出てくる親子連れを撮影することで演出や。ラストシーンはなぜか人間サイズになったリビングアーマーが、子供たちと仲ようしとるシーンでしまいや」

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