第45話ドキュメンタリーのリビングアーマー・本番
「それでは、今回はモンスターであるリビングアーマーを自分の見世物小屋のメンバーにしたいと言う人間の方に密着取材させていただくことになりました。彼女の名前はプロモーター(仮名)とさせていただきます」
よし、本番だ。オペレーターさんがナレーションをして、リビングアーマーさんを誘う人間役のエルフさんに質問をするスタイルで今回は進めていくんだ。
「プロモーターさん。わざわざモンスターを勧誘しなくても、縄でふんじばって首輪や鉄球で自由を奪って強制労働させた方が手っ取り早いのでは」
「たしかに手っ取り早いけれどね。そんな方法で無理やり見世物をさせても、お客さんはすぐ飽きちゃうんだよ。そういうモンスターがムチでひっぱたかれるような見世物を身たがる人間もいる。それは事実だよ。わたしもモンスターに恨みがないとは言わないし、モンスターが苦しむ姿を見たくないとまでは言わない。けれど、そんなことはせずにおたがい合意の上でショーをやったほうが儲かるなんて噂を聞きつけてね。だったら、とりあえず交渉をしてみようと思うんだ。ビジネスの世界じゃもたもたなんてしていられないからね」
さて、そろそろ台本ではリビングアーマーさんが登場する手はずになっているんだけれど……
「おおっと、ここでプロモーターが念願のリビングアーマーにご対面しました。しかし、モンスターのリビングアーマーは殺気立っています。無理もありません。なにせ、同胞のリビングアーマーが奴隷として人間に狩られているのです。この人間も自分を奴隷として売り飛ばそうとする人間と思い、今にも切りかかってきそうな雰囲気です。さあ、プロモーターの運命やいかに」
これはベンシさんの活弁だな。オペレーターさんの冷静なナレーションと、ベンシさんの臨場感あふれる活弁がいいコントラストになっているなあ。
「待て! いいか、ここに五千ゴールドがある。これだけあれば、君の同族の仲間のリビングアーマーが何人奴隷商人から買い戻せると思っているんだ。そして、これはとりあえずの契約金と思っていい。当方にはさらなる報酬を支払う準備ができている。とりあえずわたしの話を聞いてくれないか」
「人間め、そんなことを言われても騙されないぞ。どうせそこかしこにお前のお仲間の人間が潜んでいるんだろう。そんなことを言って俺が油断したところを生け捕りにする気なんだろう」
「そう疑うのも無理はない。だが、ここにある五千ゴールドが君の同族を奴隷商人から解放できるのも事実だ。君はモンスターだろう? 大金を持っている人間を目の前にして尻尾を巻いて逃げ出しました、なんてのはメンツが立たなくなるんじゃあないかな。お聞きの通り、わたしは弁がたつ。君がここからこそこそ逃げ出したとあらば、それこそおひれはひれををつけたそのことを吹聴するぞ。『リビングアーマーのやつ、てんでだらしないでやんの』なんて言った具合にな」
「くそ、この卑怯もの」
「卑怯呼ばわり大いに結構。君には、わたしの見世物小屋でからくり人形のふりをしてもらいたい。なにせ、からくり人形はいま人間界で大ブームでな。値段が高騰に高騰を重ねてとてもわたしのような貧乏所帯では手が出せんのだ。そこでわたしは閃いた。リビングアーマーにからくり人形のふりをさせればいいのだと。この五千ゴールドは契約金と思ってくれ」
「俺にからくり人形のふりをしろってのか?」
「そうだ。当然ギャラは払う。待遇も相談に乗る。ワックスがけをしろと言うのならしよう。高級陳列棚を用意しろと言うのならしよう。人間の観客をだまして見物料を巻き上げ、そこから支払われたギャラで同族のリビングアーマーを奴隷商人から解放するのだ。どうだ、痛快な話ではないか」
「俺に人間の前で『ウイーンガシャウイーンガシャ』なんてやれって言うのか」
「そうだ。なかなかうまいではないか。これは、わたしの見世物小屋の花形になる日もそう遠くはないかもしれんな」
「けっ、口の減らねえ野郎だ。待遇は相談に乗ると言ったな。なら、ひとつ条件をつけさせてもらおうか」
「条件とはなんだね。言ってみたまえ」
「お前が俺を装備してみろ。どうだ、できるか。装備したきり、呪いで外せなくなるかもしれないんだぞ。それでも装備できるか。俺に敵である人間の前で見世物になれと言うのなら、お前もそのくらいの覚悟をしてもらわないとな」
「そんなことでいいのか、お安い御用だ。では、まずわたしの正装であるタキシードを脱がないとな。インナーも外さないとな。全裸になってしまうが、わたしと君の二人きり……まあいいだろう。これからわたしは君を装備するわけだしな」
「待て、何も全裸になる必要はないのではないか。インナーぐらいはつけたままでいいのではないか」
「何を言う? 新しい体防具を装備する際に、以前の体防具を外すのは基本ではないか。いっぺんに二つの体防具は装備できないからな。それではいくぞ」
「やめなさい、女の子がはしたない」
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