第44話ドキュメンタリーのリビングアーマー・打ち合わせ
「ヴァンパイアさん。あなたの歌声とっても素敵だったわよ」
「ご主人様にそう褒めていただけるとは、光栄です」
ヴァンパイアさんの歌番組のあとに、また新作のドキュメンタリーを作ることになったけれど……今度はモンスターマスターちゃんのどのモンスターさんのドキュメンタリーを作ることになるんだろう。
「ご主人様。今回は是非とも拙者を取り上げていただきたい」
「あら、リビングアーマーさん。ならお願いしようかしら。とりあえず、みなさんに自己紹介しなさい」
リビングアーマーさんか。オーディションの時にスライムさんと殺し合っていたリビングアーマーさんとは別のリビングアーマーさんみたいだけれど……オーディションの時のリビングアーマーさんはあれからどうしているんだろう。
「わかりました、ご主人様。みなさん、よろしくお願いします。リビングアーマーです。この通り、全身鎧ですが中身はありません。ほら、ヘルメット部分を取り外せば……中身は空っぽです」
本当にただの鎧が動いてるって感じだな。どうやって喋ってるんだろう。
「ご主人様の仲間になる前は、古いお屋敷で置物ごっこしてただひたすらに時が過ぎるのを感じていたりしました。しまいには、拙者がモンスターなのかただの物質なのか自分でもよくわからなくなってきたりしてました」
それって、お坊さんが長い間の瞑想の末にたどり着く境地だったりするんじゃあ……
「あるいはモンスターのちびっこ相手にからくり人形ごっこで遊んだりしてました。最近、人間がからくり人形なんてものを発明しまして、それをモンスターのちびっこがうらやましがるんですね。『あんなふうに自動で動く機械が僕たちも欲しい』なんて。で、拙者がからくり人形のモノマネをするんです。『ウイーンガシャ、ウイーンガシャ』なんて効果音を自分で出して。本来ならば拙者が動く時にはそんな音は出ないんですが」
からくり人形……ロボットて言うんだっけ? リビングアーマーさんがロボットダンスするのか。
「で、からくり人形が人間の間でも大ブームになったりしまして……人間サイズのからくり人形の見世物興行がおこなわれたりして、けっこう儲かってるらしいんですね。それで、人間の方から拙者たちリビングアーマー族に『からくり人形のふりをしてくれ。報酬も払う。待遇も希望に沿うようにする。君たちを一人のパフォーマーとして扱う』なんてコンタクトを取ってくる人間もいましてね」
そんな人間もいるんだ。リビングアーマーさんもなんだか好意的な言い方をしているし……人間とモンスターが仲良くやっていけるって考えの人もけっこういるのかも。
「もちろん、拙者たちを無理やりふんじばって見世物小屋送りにしてですね……そこでムチをビシバシふるって無理やり客の人間の前でからくり人形のふりをさせる人間もいるんですが……どうも人間がモンスターを奴隷として扱うより、お互いがお互いを尊重しあってショーを行う方がお客さんの受けも良くって……要するに儲かるんですね、そっちのほうが。そうなると、市場原理で奴隷システムなんて非効率的なものが淘汰されていくのではないかと。いやまあ、モンスターと人間との因縁もありますからそうシンプルにはいかないんでしょうけれど」
へえ。モンスターさんを奴隷扱いするよりも、人間とモンスターさんが協力し合うのがうまくいくんだ。それって、ステキかも。
「この前、人間の見世物小屋でからくり人形のふりをしている同族のリビングアーマーから話を聞いたんですけれどね。同じ団員の人間とも話をするようになり、人間の歴史とか文化に詳しくなった。それで、お客さんの前で団員の人間に教えてもらった人間の歴史や文化をからくり人形っぽく話すとこれがまた受けると。そのリビングアーマー言ってましたよ。人間を襲って金品を強奪するよりも、こうやって人間を楽しませてお代を頂戴するほうがいいなんて」
むむう。人間とモンスターが戦って勝った方が負けた方の金品を強奪するよりも、モンスターが人間を楽しませてその対価として報酬を手に入れられるのならそっちのほうがいいのかも。逆に、人間がモンスターを笑わせて対価を手に入れられたりして。
「あら、それはステキなお話ね。リビングアーマーさん。それなら、今回のドキュメンタリーはそのリビングアーマーさんを見世物小屋の仲間に誘う人間をフィーチャーしたらどうかしら。モンスターに思うところがないわけではないけれども、とりあえずは利益のためにモンスターのリビングアーマーさんをビジネスパートナーにするの。で、いっしょに仕事をしていくうちに両者のわだかまりもとけていくなんて、いい話じゃない」
「それは美談ですね、ご主人様。わかりました。拙者リビングアーマー、ご主人様の台本通りにドキュメンタリーを演じさせていただきます」
ドキュメンタリーを『演じる』か。ドキュメンタリーってどういう意味だっけ。演じるとかフィクションとは違う意味合いだったと思うんだけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます