第42話奴隷のヴァンパイア

 さて、ツブラヤさんの特撮とテヅカさんのアニメでヴァンパイアさんの映像もひと段落ついたし、次はどのモンスターでドキュメンタリーを撮ろうかな……


「もう勘弁してください。そんなにたくさん血液飲めません。お腹いっぱいです。旦那様って、その、体型がふくよかじゃないですか。そんな旦那様をヴァンパイアのわたしの吸血だけでスリムにさせるなんて無理ですよ」


「なにが無理だ。『モンスター大使』のアニメでハカセをヴァンパイアがスリムにさせてたじゃないか。お前を売り込んできた奴隷商人もこう言ってたんだぞ。『お客様、いま最先端のダイエット方法がこちらのヴァンパイアによる吸血でございます。お客様のお体の余分な血をこのヴァンパイアに吸わせることで、お客様はスリムに。他にも美肌効果や運気上昇もございます』なんて。それを信じて大金はたいてお前みたいなモンスターを買ってやったんだからな。感謝して僕を吸血するんだ」


 またゴーストさんみたいなことが起こってる。あのヴァンパイアさんはモンスターマスターちゃんの仲間のヴァンパイアさんじゃないみたいだし、野生のヴァンパイアさんが奴隷としてあの人間に売られたんだな。あの人、テヅカさんのアニメを本気にしてるみたいだし。前回のパターンが通じるんだろうな。


「こら、そこのヴァンパイア! 人間を吸血して弱らせるどころか、人間の方から吸血を要求させて、あまつさえそれをこばむとは何事か! モンスターの風上にもおけん。この上官がみずから貴様を粛清してくれる。いや、その前にわれわれモンスターの敵である人間を始末するのが先だな。そこの人間、貴様を滅ぼしてくれようぞ」


「そ、そのお声は……間違いない。『モンスター大使』の上官様のお声にあらせられる。助けたモンスターに助けられるだけのキャラクターとしていまひとつ弱いハカセや、毎回変わるモンスターよりもファン人気が高い上官様ではありませんか。なにゆえ、モンスター軍の上官様がこのような人間の街の場末に? そんなことは今関係ない。上官様を怒らせたら、僕みたいな人間なんてひとたまりもない。この場は逃げるに限るでござる。上官様、そのヴァンパイアは献上いたします。煮るなり焼くなりお好きにしてください。それにしても、上官様に拝謁できただけでなくお声までかけていただけるとは、この思い出は一生の宝物になるでござる。それを考えれば、ヴァンパイアの奴隷代なんて安い安い!」


 あのヴァンパイアさんを奴隷として買った人間、喜んで逃げてっちゃった。あっちの人間は満足してるみたいだからあれでいいとして、こっちのヴァンパイアさんの方は……


「申し訳ありません、上官様。わたくしめはモンスターの恥さらしでございます。どのような罰でも甘んじて受けさせていただきます。さあ、煮るなり焼くなりお好きにしてください」


 こっちのヴァンパイアさんもテヅカさんのアニメを本気にしてるのか。あたしは別にモンスター軍の上官でもなんでもないんだけれどな。


「ええと、それじゃあひとつ質問に答えてもらおうかな。あたしの声を知っているってことは、『モンスター大使』を見たってことだよね。どこで見たの?」


「はっ、人間が発明したテレビというものは面白いのです。ですから、テレビを人間から奪い取って、われわれモンスターが人間の番組を面白おかしく楽しんでいるのです。その中でも『モンスター大使』は最高です。軍を追放された落ちこぼれモンスターが、人間を助けてやって感謝されるなど、われわれのようなしたっぱモンスターにはたまらない展開なのです、上官様」


 モンスターさんはテヅカさんの『モンスター大使』をそんなふうに楽しんでるんだ。それはいいとして、モンスターさんがテレビを人間から強奪してるんだ。これは問題かな。あとでベンチャーさんに相談しよう。けど、このヴァンパイアさんはまだあたしのことを上官と思ってるんだな。アニメの上官とあたしは似ても似つかない外見なのに、このヴァンパイアさんにはあたしがどう見えてるんだろう? 


 あたしが実は人間ですなんて言っても話がややこしくなりそうだし、ここは上官としてのキャラクターでいくか。


「では、上官として命ずる。このテレポートグッズで貴様の故郷に戻るがいい。貴様のような軟弱者は、人間と戦わずにしばらくトレーニングに励んでろ。別に血液は人間のものじゃなくても良いのだろう?」


「その通りです、上官様。野生動物の血液でもわれわれヴァンパイアは生きていくことが可能なのです。それでは上官様、故郷に帰らさせていただきます。命の危機を救っていただいたこのご恩、一生忘れることはありません。では、これで失礼させていただきます。わたしを奴隷として扱った憎たらしい人間を一喝した上官様のお姿を、仲間のモンスターに語り継いでいきたいと思います」


 ヴァンパイアさん、行っちゃった。あたしの上官としてのイメージがモンスターさんにも広まるのかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る