第41話二人の神様のケンカ・ヴァンパイア編
「やあ、ツブラヤさんじゃないですか。おたくのヴァンパイアの特撮見ましたよ。スポンサーも増えたみたいですね。街のセットも気合いがはいっていて、ヴァンパイアが空を飛んでいるシーンの街並みなんかすごかったですねえ。あんまりすごすぎて、私なんかテレビにくぎ付けになってしまったものですから、街からヴァンパイアにピアノ線らしきものが出ているのがどうしても気になってしまって……いや、失礼。なにせ、ツブラヤさんとは同業者なものですから、つい細かいところまで気になってしまって」
「いや、気づかれてしまいましたか。さすがはテヅカさんでんな。それにひきかえ、わしはテヅカさんのアニメには気になるところはありませんでしたわ。なにせ、先週のゴーストのアニメと似たようなシーンばっかりの前半やったさかい、ついつい退屈で眠たくなってしまってな。ああ、これは特撮屋としてではなく、ひとりの視聴者としての他愛もない感想と受け取ってもらって結構ですわ」
「ひとりの視聴者の感想ですか。これは手厳しいですね。なにせ、テレビを見ている大多数は私やツブラヤさんのような制作者ではなくただの視聴者ですからね。その視聴者としての感想ならこれは無視するわけにはいきませんね。では、私もツブラヤさんの特撮に関して視聴者としての意見をひとつ。別に音を活動弁士が後でアテレコする活動写真じゃないんですから、ああもくどくどナレーションを入れる必要はないんじゃないんですか。登場人物のセリフだけで十分なシーンがいくつもあったように思ってしまいました。視聴者としては、正直なところナレーションがくどいですね」
「いや、これは手厳しい感想ですな、テヅカさん」
「たしか、ツブラヤさんは軍での作戦映像を作っていらしたんですよね。その時は映像に音をつけることが技術的にできなくて、映像に合わせて軍の参謀がああだこうが説明していたとか。正直言って、その時のクセが抜け切れていないのではないかと。これは、テレビが軍事機密でなくなってから音声と映像がいっしょに出るようになったテレビしか見たことがない私の想像でしかないんですが……」
「実はその通りですねん。わしには軍で特撮映像を作っとったキャリアがあるさかい、どうしてもその時の完成した映像に音をその場でアテレコするクセがあるんやな。そんなクセがあるわしから言わせてもらうと、テヅカさんのアニメの作り方はちょいとばかり雑に見えますな」
「そんな、軍で機密のテレビを使っていた経験豊かなツブラヤさんからして見れば、昨日今日テレビを知ったばかりの私のアニメ映像なんて雑に見えてしかたないでしょうよ」
「いやいや、これはキャリアの問題やおまへん。テヅカさん。あんた、『モンスター大使』がえろう人気出たからって、テレビ局の頼みにひょいひょい応じてほかのアニメ番組もようけ作っとるらしいな。正直感心せえへんで。大量生産の結果、ひとつひとつの質が下がってもうとるがな。なんでもあんたんところの『モンスター大使』の収録スタジオはえらいしっちゃかめっちゃからしいやんか。あんまり手を広げすぎへんと、『モンスター大使』一本にしぼったほうがええんやおまへんか。少なくともわしは『モンスターQ』一本に絞っとるで」
「ほう、ツブラヤさんは『モンスターQ』一本槍ですか。それにしては……あのヴァンパイアが襲う街並みは前回のゴーストの時の街並みといっしょでしたよね。そびえ立つ塔を付け足していたようですが、わたしの目はごまかされませんよ。本音を言わせてもらえば、今回はツブラヤさんはどんな特撮を見せてくれるのかワクワクしていたんですけど、同じ街のセットを使われては……興がさめてしまいますよ。『モンスターQ』に絞ると言うのなら、もうちょっとセットに気合を入れてもらいたいものですな」
「なんや、さっきからおとなしゅう聞いとれば、『軍事機密のテレビを扱ってた大先輩』なんて連呼しくさって。そんなに自分がわしと同じキャリアでテレビを使っとたらわしよりもごっつい映像が作れると言いたいんか! 軍事機密を軍で扱っとって何が悪いんや。そういうものも全部含めたんが映像作家としての技量違うんかい。止めるなや、離さんかいスーツアクターちゃん。このネチネチ持って回った言い方で嫌味言ってくる漫画屋をぶん殴ってやらな気が済まんわい」
「こちらこそ言わせてもらいますけれどね、私はテレビ局の求めに応じてるわけじゃないんですよ。読者や視聴者が私の作品をもっと見たいと言うから『モンスター大使』以外の作品を作り出してるんです。粗製乱造? 薄利多売? それがなんですか。少なくとも読者はその粗製乱造品を買ってくれてますよ。読者が買わなくなったら、私も質の向上につとめますけれどね。80点の作品を週一つと60点の作品を週三つどっちがいい? って話ですよ。止めないでください、アニメーターさん。この先輩風を吹かせたロートルをひっぱたかせてください」
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