第40話アニメのヴァンパイア・反応

「いやあ、テヅカさんのヴァンパイアのアニメも、ツブラヤさんのヴァンパイアの特撮に負けず劣らずの反響だよ、ユウシャさん」


「いやあ、もう大変でしたよ、ベンチャーさん。アニメの効果音とか、誰もやったことがありませんからみんな手探りで作っていくんですよね。それがまあ、スタッフのみんなが真剣なのが伝わってきてですね。テヅカさんなんか、『漫画では『シーン』と擬音を入れればこのコマでは音がないんだなって読者に伝わるのに、アニメではそれができない。画面に『シーン』なんて出すわけにもいかないし……かと言って、この前のゴーストのアニメでちょっと演出で音を出さないシーンを入れたら苦情の電話がじゃんじゃん来ましたし』なんて頭を抱えてうんうんうなっていましてね」


「ああ、その苦情に関してもわたしたちテレビ局側と、国のお偉いさんが話し合ってルールが決まったんですよ。テレビでは、10秒以上無音にしてはならないなんて法律で決められちゃいましたよ。なんでも、テヅカさんのゴーストのアニメだけじゃなく、お笑い番組で芸人さんがそれまで普通に話していたのに、突然口をパクパクさせるだけになった。見ている人がテレビが故障したのかなと思って、音量を上げたら突然テレビから大音量で流れるんです。『故障したのかと思いました? 違います、口をパクパクさせていただけです』なんてね」


 そんなことが。たしかに、その冗談はテレビじゃないと成立しないよなあ。


「もう、苦情の電話が鳴りっぱなしですよ。もう、ケチをつけるためにテレビを見てるんじゃないかって思うくらいでして……まあ、見てもらえないよりはずっといいんですが。なにせスポンサーもうるさいのが多くてですね。そういえば、テヅカさんのヴァンパイアのアニメでは、それっぽいBGMを流して静かなシーンを演出していましたね」


「そうなんですよ。スタジオに楽器持った音楽家さんがいっぱいいて、ああでもないこうでもないとテヅカさんと作曲してるんですね」


「なるほど、作曲ですか。たしかにテレビ番組には音楽も必要ですもんね。となると、毎回テーマソングを流すのもいいかもしれませんね。テヅカさんのヴァンパイアのアニメ、ずいぶん前回のゴーストのアニメの使い回しが多かったですけれど……毎回オープニングとエンディングに同じテーマソングと映像を流せば、時間稼ぎもできるじゃないですか。こちらとしても、『モンスター大使』なんて人気番組のテーマソングを歌う歌手が歌番組に出てもらえれば番組としても盛り上がりますし」


 オープニング曲にエンディング曲かあ。それはいい考えかも。曲を聞いただけで、子供達が『あ、モンスター大使の曲だ!』なんてなるのかなあ。


「しかし、テヅカさんも人気漫画家になっちゃって大変ですね。テヅカさんの仕事場にファンの子供たちが押しかけているそうですよ。なんでも、テヅカさんの漫画に『テヅカ先生にファンレターを書こう』なんてメッセージといっしょに仕事場の住所まで書かれてて、そこにファンの子供たちが色紙を持って殺到したみたいですよ。『テヅカ先生、サインください』なんて」


「それ、大変なことじゃないんですか、ベンチャーさん。テヅカさん、仕事が忙しくて寝る暇もないってぼやいていたのに。どうなっちゃったんですか」


「それがね、テヅカさんが『色紙にサインは書けないんだ』なんて言った後に、動画用紙を何枚も取り出してね、まずテヅカさんが2種類のポーズを取る。その2種類のポーズのヴァンパイアさんの絵をテヅカさんが描いている間に、アニメーターさんが動画を描きあげたんだ。テヅカさんが2枚描き終わる間に、アニメーターさんが何枚も動画を描いちゃう。その動画をテヅカさんの2枚の絵にはさんで、パラパラさせれば即興アニメの出来上がりだよ。もう、子供達は大喜びさ」


 それは、子供たちも喜ぶだろうなあ。自分たちの目の前でテヅカさんやアニメーターさんが絵を描いてくれて、それが動画になるんだから。


「ただ、問題が一つ起きちゃって。『じゃあ、この絵をここにいるみんなにプレゼントだ』なんてテヅカさんが言って、子供たちが我も我もと絵を欲しがるんだけど……みんなアニメーターさんの絵の方を欲しがっちゃってね。子供たちにしてみれば、『あんなに速く絵が描ける、すごい、ほしい』なんてなっちゃったんだけど、テヅカさん本人はえらく傷ついちゃってね。アニメーターさんが必死でなだめてたとか。『テヅカ先生の漫画あってこそのわたしの動画なんですから』なんて」


 あのツブラヤさんに対抗心を燃やすような嫉妬心のかたまりで、新人のベンシさんをライバル視するような自分が一番じゃなきゃ気が済まないテヅカさんがそんな仕打ちにあったら、それは落ち込むだろうな。


「なんとかテヅカさんも立ち直って、来週のアニメの構想を練り始めたそうだけれど……いや、テヅカさんが『私はもう世間に必要とされてないんだ。もう私の漫画なんて誰も読まないんだ』なんて筆を折っちゃったら、わたしのテレビ局は『モンスター大使』と言うドル箱をひとつ失ってしまうからねえ。ユウシャさん、テヅカさんのご機嫌取りをよろしくたのむよ」

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