第39話アニメのヴァンパイア・シナリオ
「そこで、ユウシャさんにオペレーターさん、そしてベンシさんの出番になるわけです。動画の新規作画が少ししかできないのなら、せめて使い回しの前回の同じ動画の部分には前回とは違うセリフを当てたいじゃないですか。どうせ生放送なんだから、前回の音源を使い回すよりもそっちの方がいいでしょう。と言うわけで、これからシナリオとしてセリフを考えていきます。まずはモンスター軍の上官がヴァンパイアをいびり倒すシーン。さあ、ユウシャさん。ヴァンパイアをどういびりますか?」
わ、テヅカさんがいきなりあたしに振ってきた。そんな急に言われても……
「何かないんですか、ユウシャさん。『ヴァンパイア。貴様は人間の血液が自分の食事となるからって、人間征伐を辞めたいとは何事だ。人間を滅ぼすことが我がモンスター軍の任務である最優先事項なんだぞ。人間が滅んだ後に、貴様らヴァンパイアが飢え死にしようがそんなこと知ったことではないわ。安心しろ、きちんと戦死扱いにしてやるから。はなばなしく人間相手に討ち死にしたと報告してやる』とか……
あの、テヅカさん。たしかにそこまで言われれば、見ている人もヴァンパイアさんをかわいそうに思うでしょうけれども。
「あるいは、『ヴァンパイア。貴様は誇らしげに人間の血を吸ってきたと報告してきたな。これであの人間は今頃貧血でくらくらしてるはずだと。しかし、別のモンスターの報告によると、その人間はむしろ健康になったそうだぞ。なんでも悪い血液が抜かれたせいなのかなんだかスッキリした気がすると。愚か者。モンスターが人間を健康にしてどうする。どうせなら、貧血どころではなく干物になるまで人間の血液を吸い尽くしてこい。なに、そんなに血液を飲んだら、飲み過ぎで体壊しちゃうだと。そんなもん知るか。前線では同胞のモンスターが人間にたくさん殺されているんだぞ。それなのに貴様、恥を知れ』とかですね」
よくもまあ、そんなに悪口がポンポン出てくるな。漫画家さんってみんなこんな感じなのかな。
「とにかく、ユウシャさんはモンスター軍の上官をとびきりにくたらしく演じてください。ユウシャさんが上官を嫌な奴にすればするほど、その上官にいびられるヴァンパイアに人気が出ることになるんですから。で、次のシーンですね。軍を逃げ出したヴァンパイアをハカセが助けるシーンです。お、前半の動画が仕上がったみたいですね。それでは、完成した動画を見ながらセリフのリハーサルといきましょうか」
いま完成したばかりの動画でセリフのリハーサルするのか。そのうち、未完成のラフな絵を見ながらセリフを言い合うようになったりして……
「……それでは、ヴァンパイアがハカセの血を吸うシーンです。ベンシさん、お願いします」
「テヅカ先生、血を吸う効果音も僕がやるんですか? ストローで飲み物をすする音を使ったりしないんですか?」
「ダメですよ、ベンシさん。そんなことを言っていては。なにせ生放送なんですからね。収録のマイクの前にストローやら飲み物やらがあったらどんな事故が起こるかわかりません。ベンシさんが自分の口で吸血の効果音を出してください」
吸血の効果音か……あたしが戦闘でヴァンパイアさんに血を吸われた時はどんな音がしてたんだっけ。そもそも、血を吸われるときに音なんてしてたっけ?
「いいですか、ベンシさん。『モンスター大使』ではありませんが、ここに私の漫画でヴァンパイアに人間が血を吸われているシーンがあります。『チュウウーー』という擬音があるでしょう。この擬音をベンシさんに表現してもらいたいんです。実際にヴァンパイアが吸血するときにそんな音がするかどうかは問題ではないのですよ。見ている人に、『ああ、いまハカセは血を吸われているんだな』と思ってもらうことが重要なんです」
「『チュウウーー』ですか、テヅカ先生」
「擬音をそのまま言葉で口にしてどうするんですか、ベンシさん。そういうことじゃないんですよ。そうですね、親指をしゃぶってみてください、べんしさん。マイクの前で。音を立てて」
「そんなこと活動弁士の時はしたことが……わかりました、やりますよ、テヅカ先生。こんな感じですか」
わ、ベンシさんが自分の親指をちゅうちゅう吸ってる。マイクの前でやってるからその音が響き渡ってる。
「いいですよ、ベンシさん。それでは他の方法も試してみましょう。手の甲を吸ってみてください。しっかり音を立てるんですよ。マイクの前でお願いしますよ」
「今度は手の甲ですね、テヅカ先生。どうですか」
今度は手の甲か。いろんな方法考えつくなあ、テヅカさん。
「いいですよ、ベンシさん。それでは、血を吸ってハカセをやつれさせました。そのハカセをまるまる太ったヴァンパイアが運び出しました。そして、ハカセにヴァンパイアが吸い取った血を戻すシーンの効果音です。どんな音をどんな風に出しましょうかね……」
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