第38話アニメのヴァンパイア・稽古
「こんなことをしている場合ではありませんよ、アニメーターさん。なにせ、生放送の時間がせまっているんですからね。アニメーターさんが動画をパラパラしてください。私がセリフやシチュエーションを説明していきますから」
「はい、テヅカ先生」
あ、テヅカさんに言われたアニメーターさんが動画をパラパラめくる準備を始めた。
「ユウシャさん、今回は動画のアタリだけですから前回みたいに動画の完成形じゃありませんから勘弁してください。それじゃあ、始めますよ。テヅカ先生、説明してくださいね」
「いいですよ。いつでも始めてください、アニメーターさん」
アニメーターさんが言ってる動画のアタリってどんな感じのものなのかな。見ればわかるか。
「いいですか、例によってモンスター軍の上官に理不尽にいびられるかわいそうなヴァンパイアです。いびっている上官は前回のゴーストの時のものを使いまわします。いびられているヴァンパイアの絵だけ新しく書き起こします。ああ、ユウシャさん。絵は同じですけれど、セリフは好きにしちゃって構いませんから。ユウシャさんは好きなように軍の上官としてヴァンパイアをなじってください」
……好きなようになじってくださいと言われても、あたしがいま見ている動画のアタリにはうなだれているヴァンパイアさんしか映っていないんですが。しかも、動画と言われてもヴァンパイアさんちっとも動いていないし。
「このシーンではヴァンパイアは動かずにうなだれてるだけです。なにせ予算がないんです。前回の放送の後で、スポンサーになりたいと言う打診が何件か来たんですが……そのスポンサーさんは私の別の漫画のアニメのスポンサーになってもらいましたから、この『モンスター大使』の現場の予算は相変わらずカツカツです。私の持ち出しです。私の漫画を売るためのアニメなんだから当然です」
ひええ。この現場だけでもてんてこまいなのに、テヅカさんまた別の新しいアニメ番組を作るのか。すごいバイタリティだなあ。
「で、次のシーン。ハカセが傷ついたヴァンパイアを助けて自宅のベッドで介抱する。ここもハカセの部分は前回のものを使いまわします。ヴァンパイアの部分だけが新規作画です。で、地震が起きて柱が倒れてハカセが失神する。今にも崩れ落ちそうなハカセの家。ここまでの流れは前回とまったく同じです。ここからが新しいストーリーです」
ここまでって、テヅカさん。もう前半が終わっちゃったじゃないですか。これからCMになるんじゃないですか。ここまでの流れが前回とまったく同じって、今回のお話は前半がまるまる前回と同じパターンになっちゃうんじゃないんですか。いいんですか、それで。
「そして、ハカセを家から運び出そうとするヴァンパイアです。しかし、ハカセの体が太っていましてヴァンパイアさん一人ではとても運べそうにありません。そこで、ヴァンパイアさんがハカセの血を吸います。みるみるうちにやせていくハカセ。一方あっという間にふくよかになるヴァンパイア。そのハカセをヴァンパイアが家から引っ張り出す。崩れるハカセの家。で、ヴァンパイアがいったん吸ったハカセの血液を再度ハカセに輸血する。太った体に戻るハカセ。ヴァンパイアはもとのスレンダーな体に。これでめでたしめでたしです。ここが作画の力のいれどころです」
あ、やっとアニメーターさんがパラパラめくってる動画にハカセとヴァンパイアさんが出てきた。ここから前回の使い回しじゃなくて新しく描いた絵ってことなのか。ああ、アタリってこういうことか。しっかり描き込まれた絵の間に、シンプルだけれどグリグリ動いている絵がある。おかげで絵が動いて見える。
「いいですねえ、アニメーターさん。この動かし方で問題ないですよ。では、このアタリを動画として仕上げてください」
「わかりました、テヅカ先生」
これで今回の話が終わりなのか……アニメーターさんがテヅカさんに言われて、すぐに動画の仕上げにとりかかってる。すごい速く動画を仕上げていくな。これだけアニメーターさんが速く動画を描けるから、テヅカさんはあんなに本番ギリギリまでねばってられるのか。
「いいですか、ユウシャさん。これ、見てください。わたしの原作の『モンスター大使』です。今回のヴァンパイアの話と、前回のゴーストの話で、モンスターが軍の上官にいびられるシーンを見てください。全然違うでしょう?」
本当だ。漫画だと、ゴーストさんとヴァンパイアさんがいびられてるシーンが全然違う。ゴーストさんのほうは上官に言葉でなじられてるのに、ヴァンパイアさんの方はニンニクギョウザを食べさせられようとしてる。
「私も、こんな同じようなパターンはしたくないんですよ。どうせなら二番煎じじゃあなくていつも新しいものを作っていきたい。しかし、アニメを作るにはお金があまりにも足りないんです」
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