第37話アニメのゴースト・打ち合わせ
「いやあ、ユウシャさん。今回のヴァンパイアのドキュメンタリーもすごかったですねえ。いや、本当にえらいものを作ってくれましたよ。あんなものを作られては、こちらとしてもうかつなアニメなんて作れないじゃないですか。なんてことをするんですか、ユウシャさん」
テヅカさんにアニメ作りを手伝うように言われてきたけれど……テヅカさん、これ怒ってるのかな、喜んでるのかな?
「で、今回の『モンスター大使』の原作漫画がこれです。あのドキュメンタリーを見て大いに刺激されましてね、漫画24ページ描いちゃいました。他の漫画の締め切りもあるのに。編集さんに泣かれましたよ。『テヅカ先生、そんなもの描いてないでうちの社の漫画を描いてください』って。まったく、そんなものとはなんですか。失礼な。この傑作を生み出していた私を目の前にして言うことですかね。だいたい、ユウシャさんが悪いんですよ。ユウシャさんがあんな映像を作ってしまうから、私は新作を作らずにはいられなくなってしまうんです」
それ、あたしのせいなんですか、テヅカさん?
「とりあえず、今回の『モンスター大使』の話はそれでいきますから、ユウシャさん、オペレーターさん、ベンシさん呼んでください。アニメーターさんや他のスタッフさんにはもう呼んでもらってます。くれぐれも破ったり汚したりしないでくださいね。それがオリジナルの原稿で、それがどうにかなったら私の漫画が本にならなくなってしまいます。そうなったら、『モンスター大使』のアニメのCMで『モンスター大使』の漫画を宣伝するどころではなくなってしまいますからね」
オリジナル! ってことはテヅカさんの直筆。あ、ベンシさんが恐れ多くて固まってる。無理もないか。ベンシさんはテヅカさんを神様みたいに思ってるからな。
「あの、テヅカ先生。動画のアタリできました。確認してもらえますか……あ、ユウシャさん達じゃないですか。今回もよろしくお願いします」
あ、アニメーターさんだ……
「あの、アニメーターさん。動画のアタリってなんですか?」
「そうか、ユウシャさんにはまだ説明していませんでしたね。じゃあ不肖このアニメーターが解説させていただきます。まず、わたしと違って絵の上手い人が基本となる絵を描きます。これが原画です。その原画と原画の間にわたしが動画を挟むんですが……とりあえずおおざっぱな動きだけ描いちゃって、『こんな感じでいいですか』ってテヅカ先生に確認してもらうんです。『モンスター大使』はテヅカ先生の作品ですからね。わたしの勝手な解釈で先生の世界観を台無しにしてしまうわけにはいかないんです」
そういうことか。共同制作ってのも大変なんだな。
「じゃあ、そのテヅカさんの確認をあたしたちもいっしょにさせてもらってもいいですか? あたしたち今回のストーリーをまだ知りませんし、テヅカさんの生原稿は恐れ多くてさわれそうにないですし」
「ですよねえ、その気持ちわかりますよ、ユウシャさん。わたしも、テヅカ先生のもとでアシスタントをしていた時に、テヅカ先生の生原稿にベタやトーンを貼るときはドキドキしましたもん。テヅカ先生の作品を世界で一番最初に読めるなんて栄誉を授かるだけでなく、その作品を作る手伝いまでさせていただけるんですから。動画担当になって残念なことがひとつあるとすれば、テヅカ先生の作品を一番最初に読めることができなくなったことですかね」
いや、まあ、少なくともあたしは作品を作ると言っても、チョイ役の声を担当するだけなんですが。
「別に私の直筆原稿なんてそんなたいしたものではありませんが。私の仕事部屋には私自身がボツにした失敗原稿がいくらでもありますし」
「それ、本当ですか、テヅカ先生! わたし、それぜひ拝見させてもらいたいです」
「ダメですよ、アニメーターさん。私がこれは人に見せられないと判断してボツにしたんですから。たとえ動画制作で私の右腕となったアニメーターさんでもそれだけはいけません」
あの、今回の『モンスター大使』のストーリーの説明をしてもらいたいんですが……
「そんな、わたしみたいな未熟者がテヅカ先生の右腕だなんて恐れ多い……じゃなくて、テヅカ先生のボツ原稿どうしても見せてくれませんか」
「ダメったらダメです。私に失敗作品を見せろだなんて、下手したら女の子がおっぱいやお尻を見せるくらい恥ずかしいことなんですから」
アニメの『モンスター大使』の放送時間の方はどうなってるんですかねえ。締め切りとかデッドラインとか大丈夫なんですか? Aパートを放送している最中に、Bパートに作画をするなんて事態になんてなりませんかね。
「じゃあ、わたしの失敗動画も見せますからそれでおあいこってわけにはいきませんかね、テヅカ先生。ほら、わたしのことを右腕だって言ってくれたじゃありませんか」
「なんですか、女の子が自分から恥部を人に見せつけつるようなマネをして、はしたないにもほどがあるんじゃないですか、アニメーターさん」
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