第36話特撮のヴァンパイア・反応

「いや、今回のツブラヤさんの特撮も素晴らしかったね、ユウシャさん。なんでも、あの後に遊園地でヴァンパイアさんの格好をしたスーツアクターさんが着ぐるみショーをやったそうじゃないか。それも、ベンシさんが舞台裏で声を当てて、オペレーターさんがそれを人間の言葉に通訳するショーのお姉さん的なことまでもやってたみたいじゃない」


「そうなんですよ、ベンチャーさん。あたしは、お客さんの整理だとか誘導だとかの雑用ばっかりだったんですけれど、もう、スーツアクターさんの着ぐるみショーがすごい人気で。なかには『コウモリに分裂してー』なんて言う子供まで出てきちゃって」


「まあ、子供ならそう言っちゃうかもね。それでどうなったの?」


「なんでも、ベンシさんやスーツアクターさんが想定問答を作っていたそうです。お二人とも、じかにお客さんの前で芸をやってた時期が長いから……そういう不測の事態への備えは慣れてるようでして……」


「なるほど、想定問答か。それで、どんな受け答えをしたの、ユウシャさん」


「『ごめんね、この会場の準備の時にコウモリになってみんなを刺すような悪い虫を食べちゃってたから……もう疲れちゃって今日は変身はできないんだ』なんて答えててましたよ。あたし、思わず感心しちゃいました。ほかにも、子供が大泣きした時は、オペレーターさんが十字架を出して、スーツアクターさんがひっくり返ります。そして、オペレーターさんが『これでヴァンパイアさんはいいヴァンパイアさんになったから安心してね』なんて言う流れになっていたそうです」


「それはそれは。わたしのテレビ局からそんの人気コンテンツが誕生して喜ばしい限りだよ」


「そのあと、ヴァンパイアさんの握手会とサイン会になってですね……スーツアクターさん、『ヴァンパイア』のサイン一生懸命練習してたんですよ。ベンシさんもその様子をこっそり見ていて、うまいこと『ヴァンパイア』ってセリフを感情豊かに言って着ぐるみのスピーカーから声出してるし。会場に来た子供さんとそのお母さんは大喜びでしたよ」


「それは何より。子供が来るってことは、そのお母さんも来るってことだからね。そのお母さんのハートもガッチリつかめるような番組を作ってくれたツブラヤさん様様だね。と言うわけで、その遊園地からタイアップのお誘いが来た。なんでも、うちの遊園地を使ってほしい。あれだけの番組にうちの遊園地が出れば、実にいい宣伝になるからって」


「そうなんですか、ベンチャーさん」


「その提示金額がなかなか魅力的でね、そのことをツブラヤさんに言ったら二つ返事で引き受けてくれたよ。今頃、スタッフ引き連れて遊園地のセット作りの参考に遊園地をロケハンしてるんじゃないかな。なにせ、提示された金額が金額だからね。ツブラヤさんも『これでセットを使い回す必要がなくなる。作っては壊し、作っては壊しなんてできるんだ』って大喜びだったよ。今頃スタッフさんと『どのアトラクションをどうやって壊そうか』なんて盛り上がってるんじゃないかな」


 そんなテロリストみたいなことを……あのツブラヤさんなら言いそうだな。いい映像が作れるのなら他に何もいらないって感じの人だし。警備の人に怪しまれないといいけど。


「遊園地さんサイドも、『この観覧車壊してくれませんか? 設計図でもカラーリングでも資料はいくらでもお渡ししますから』なんて大乗り気でね。なかには、『モンスターQ感動しました。自分もあんなヴァンパイアが降りてくる塔みたいに特撮に使われるアトラクション作りたいです。こんなアトラクションどうですか? 巨大モンスターに壊されるときの見栄えを重視してデザインしたんですけれど』なんて売り込んでくる設計技師さんもいてね。モンスターさんに壊されるためにデザインを考える人間が出てくるなんて、すごい時代になったものだよねえ」


 モンスターさんに壊されることを前提としたデザインか。モンスターさんが壊すんじゃなくて、巨大なヒーローがいてもいいよね。そんな巨大ヒーロー用に、伝説の剣の巨大なモニュメントなんてできたりして。刃の部分が地面に刺さって、手に持つ柄の部分だけ地面に出てる伝説の剣。それの巨大なやつをモニュメントとして作って……


 もちろん、現実には地面に刺さってる部分なんて巨大すぎて作れないけれど……ツブラヤさんの特撮で、その地面に刺さってる伝説の剣の人間サイズの模型を作って、もちろんそれには刃の部分があって、それをヒーローの格好をしたスーツアクターさんが引き抜いて。剣を振り回している姿を巨大ヒーローとしてテレビに映せたら……わ、考えただけでドキドキしてきた。その巨大の剣のモニュメントがあったら、絶対行きたいかも。


「どうかしましたか、ユウシャさん。なんだかニヤニヤしてますよ」


「え、そうですか、ベンチャーさん。あたし、そんな顔してましたか?」

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